第6話 すみれとカードの物語

グルー(膠)のカードさんを封印した日のこと。
あたしとケロちゃんは、そろそろ寝ようとしていた。
「おやすみ、すみれ。今日も、ようがんばったな」
「ねぇ、ケロちゃん」
「なんや?すみれ」
「グルーのカードさんて、ケロちゃんよりも前に創られたんだよね」
「そうや。わいやさくらカードのあんちゃんみたいなもんや」
「クロウさんって、どんなふうにカードを創っていたのかな?」
「いろいろやな」
「いろいろって?」
ケロちゃんは、ちょっと考え込んだ。
「バブルのカードみたいに、冗談みたく創ったカードもあるし、
話せば長くなるカードもあったな」
「ねぇ、よかったら、その長くなるお話って、してくれない?」
「そやなぁ。すみれもカードキャプターやし、少しはクロウのことを
知っといてもええやろ」
ケロちゃんは、あたしのそばにちょこんとすわった。

その頃、わいらは、イギリスの田舎にあったマナーハウスに住んでおった。
「マナーハウスって?」
貴族のお屋敷や。クロウは、没落した貴族の屋敷を買って、住んでおったんや。
そこは、小さい屋敷やったけど敷地はごっつう広うて、
人づきあいの悪かったクロウには都合よかったんや。
そこでクロウは、わいやユエ、それにカードを創ったり、いろいろな
魔法の研究をしとった。
ところがな、敷地に住んでおったんは、わいらだけやなかった。
クロウの前の屋敷の持ち主に仕えておった、庭師の少年とそのおばあちゃん
だけは、クロウが住むようになっても、そのままやった。
魔法を使えば、庭師なんか要らんかったんやけどな。
「どんな人たちだったの?」
庭師の子は、まじめな働きもんやった。
それに、とってもおばあちゃん思いやった。
おばあちゃんの方は、わいらが住み始めた頃に、病気で寝たきりになってな、
あのクロウが、薬を都合してやったりしとったんや。
「へぇ。クロウさんって、薬も作れたんだね」
そうや。で、その日のことなんやけど、夜明け頃、わいはクロウに
起こされたんや。

「なんや、クロウ。こんな朝早くから。わいは寝起きが悪いんや・・・」
「起きてください。用事があるのです」
「なんやぁ?ユエは起こさんのか?」
「ユエは、ケルベロスよりも寝起きが悪いでしょう」
「そやそうやけど・・・」
わいとクロウは、庭に出た。わいは、何度もあくびをした。
「ほら、来ていますよ」
「あれは、チャールズやないか。こんな朝早くから、何しに来たんやろ」

「チャールズって?」
「庭師の子の名前や。わいらは、チャールズに近づいた」

「おはよう。チャールズ」
「お、おはようございます。クロウ様、ケルベロス様。
こんなに早くからどうされたのですか?」
「あなたと同じですよ。今日は、私に言いたい事があって、早くから
来たのでしょう?」
チャールズは、少しびっくりしたんやけど、少しだけやった。
まぁ、それまでにクロウの魔法を見る機会が何回かあったからな。

チャールズは、改めてクロウを見ると話し出した。
「突然ですが、今日限りでお仕えすることができなくなりました」
「昨夜遅く、呼び出しが来たのですね」
チャールズはびっくりしたようだけど、すぐに言葉を続けよった。
「はい、戦争に行かなければなりません。明日にはここを出なければ
ならないのです」
「・・・」
突然のことに、わいは、クロウとチャールズの間に座って、
黙って話を聞くことしかできんかった。チャールズは、まだ12才。
そんな少年でも、戦争に駆り出されたんや。
「それで、クロウ様。お願いがあるのですが・・・」
「おばあさんのことなら、できるかぎりのことをしてあげましょう。
今日は、もうお帰りなさい」
「ですが・・・庭の手入れがまだ・・・」
「私から、最後に2つお願いをします。聞いてくれますね」
「はい、なんでしょうか」
「ひとつは、明日の夜明けに、もう一度ここに来てください」
「わかりました」
「もうひとつは、戦いに行く事は、まだおばあさんに話してませんよね。
明日、私たちに会うまで、そのことを話さないでください」
「そんな・・・」
「心配しなくてもいいのですよ。明日、ここに来ればわかりますから。
それより、私は今日、これから忙しくなります。庭で音をたてられると
気が散って困ります。ですから、今日は帰って、おばあさんの面倒を
してあげなさい」
チャールズは、不安そうやったけど、庭の手入れ道具を持つと、
敷地のすみっこにある、小さな家に戻って行きよった。
「クロウ、何考えてるんや?」
「ケルベロス、すみませんが、明日の夜明けにチャールズを迎えに
行ってくれませんか」
「ええけど、わいは寝起きが悪いんは知ってるんやろ」
クロウは答えた。
「ユエは、ケルベロスよりも寝起きが悪いでしょう」
「そやそうやけど・・・」
「私は、これから地下室にこもります。明日の夜明けになったら、
チャールズを地下室まで、よろしくお願いしますね」
「まったく、勝手なんやから・・・」

その翌日の夜明け。チャールズは約束どおり来よった。
「おはようございます。ケルベロス様」
「おはようさん、チャールズ」
「あの、クロウ様は」
「屋敷の地下室で待っとる。わいに着いてきてや」
わいは、クロウに言われたとおりに、チャールズを地下室の前まで案内した。
「クロウ、おるか」
「ケルベロスですね」
クロウの返事や。心なしか、声に張りがなかった。
「チャールズ連れてきたで」
「予定通りですね。中にお連れしなさい」
わいらは、部屋に入った。中には、魔法の道具や書物がぎょうさん、
乱雑に置かれておった。不思議な雰囲気に、チャールズは声もよう出んかった。
「こちらにいらっしゃい」
「クロウ・・・大丈夫か?ふらふらやないか」

「大丈夫ですよ。ちょっと急いで新しいカードを創っただけですから」
クロウの疲れた顔なんて、それまで、わいは見たことがなかった。
おそらく、カードを創るための魔法を、一晩で集中して使うのは、
クロウでも難儀なことやったんやろな。
「あの、おはようございます。クロウ様」
「おはよう、チャールズ。昨日の私のお願いは、守っていただけたかな?」
「はい、おばあちゃんには黙っていました。でも・・・」
「それなら、結構です。こちらに立ってください」
「クロウ、これは?これが新しいカード?」
クロウのそばにあったのは、クロウの背丈ほどもある、大きな鏡やった。
「鏡を見ていてくださいね、チャールズ」
「何をする気や?クロウ」
クロウは、鏡を見やると呪文を発した。
「お願いしますね。彼の者の姿を写し、もうひとりの彼となってください。
『ミラー』」

クロウが呪文を発すると、鏡の中に、東洋風の服をきた少女が現れた。
見ていると、その姿は、チャールズの姿にモーフィングしていきよった。
そして、鏡に映ったチャールズの姿は・・・
「あ、あわわわ!」
声にならない声を発して、チャールズは尻餅をついた。
鏡に映ったチャールズが、鏡から抜け出してきたのだ。
その、もうひとりのチャールズは申し分けなさそうな顔をすると、
クロウに向かって言った。
「すみません。驚かせてしまいました」
声まで、チャールズそっくりやった。
「気にしなくてもいいのですよ」
クロウは、今度はチャールズに言った。
「立てますか。この子は、魔力でできた、もうひとりのあなたです」
「も、もうひとりの、俺?」
「姿かたちだけではなく、あなたの記憶まで写してあります。
あなたが戦争に行ったあと、おばあさんのことはこの子に任せてください。
そうすれば、おばあさんには、あなたが戦争に行った事はわかりませんから」
「クロウ、チャールズに戦争に行く事を言わせなかったんは・・・」
「はい、このためですよ」

クロウは、動転していたチャールズを落ち着かせると言った。
「出頭までには、まだ、時間があります。おばあさんにもう一度会っていきなさい。
そして、そのまま、いつものように家を出れば、あとはこの子がやりますから」
「は、はい。ありがとうございます」
チャールズは、まだ不安なようやったが、とにかく、おばあちゃんが
悲しまずにすむことには納得したようやった。
その後、わいらはチャールズを見送った。

「なぁ、クロウ、わい、考えたんやけど」
「なぜ、カードがあるのにチャールズ本人を戦争に行かせるかということですね」
「ああ、カードを行かせれば、チャールズが危険なめにあうことはない」
「私は以前から言ってきました。
魔力を使って、人の寿命をいじるのはいけないことだと」
「じゃ、クロウ、チャールズは・・・」
「それに、ケルベロス、もうひとつ忘れてはならないことがあります」
「なんや?」
「軍にも魔術師はいるのですよ」
「そうか!」
「カードであることは、いずればれます。
ばれたカードが、軍でどのような扱いになるか、考えたことがありますか?」
「・・・そうか・・・」

「ねぇ、ケロちゃん、その後、どうなったの?」
「その日から、ミラーのカードは、チャールズとして毎日を過ごした。
ミラーにとっても、おばあちゃんにとっても、それなりに楽しい毎日の
ようやったな。けど、戦争が終わる前に、おばあちゃんは亡くなってしもうて、
わいとクロウ、そしてミラーで最期は看取ったんや」
「チャールズはどうなったの?」
「わからん。おばあちゃんが亡くなると、まもなく、クロウのやつ、
中国に行きたい言い出してな、チャールズのことは人に頼んで
わいらはイギリスを出たんや」
「ふーん」
あたしは、なんて言ったらいいのかわからなくなった。クロウ・カードを
創るのに、そんなことがあったなんて、思いもよらなかったからだ。
「すまんな、すみれ、湿っぽい話してしもうて」
「ううん、そんなことないよ。クロウさんって、いろんなことがあったんだね」
「そや」
「ねぇ、ケロちゃん」
あたしは、声を明るくして言ったみた。
「じゃ、グルーのカードさんは、どうやって創られたのかな?」
「そやな、聞いてみよか」
ケロちゃんが少し光を発すると、あたしの机の上にあった
グルーのカードさんが飛んできた。そして、ふたり(?)は向き合った。
精神集中のためか、ケロちゃんの顔が真剣になる。
それが、突然、とっても情けない顔になった。
「すみれ・・・」
ケロちゃんがあたしの方を向いた。
「ど、どうしたの?何かあったの?」
「グルーのカードやけどな、クロウが魔法の儀式用に借りてきた、
どこぞのごっつう高価な壷を割ってしまったんやと。
それをごまかすために、急いで創ったカードなんやって・・・」
「そんなぁ。せっかくいい話を聞いた後なのに・・・」
「ほんまやなぁ」


次回予告
今度の週末、あたしと龍平は、桃矢おじさんのいる発掘現場に行くことに
なったんだ。発掘って言ったって、引き揚げた沈没船を調べているんだって。
ほえ〜?!どうして、衛(ウェイ)君がここに来てるの?
それに、沈没船からクロウ・カードの気配が!

カードキャプターさくらと小狼のこどもたち
すみれと花に込められた想い

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
封印解除(レリーズ)! >>NEXT

 

ケロちゃんにおまかせ!

こにゃにゃちわー!
食欲の秋!勉強の秋!天高く馬肥ゆる秋!
ケロちゃんにおまかせの時間がやってきたでぇー!

今回は、前のお話で、わいが大阪弁をしゃべっとるのはおかしいんやという疑問やな。
・・・
それはやな、…126 の間違いや!
当時、わいやクロウがしゃべっとったんは、英語や。イングリッシュや。
まぁ、126 に、わいのナイスで小粋な英語を書けゆうのも無理な話やな。
あの頃、わいらはハドリアンウォールから、そない遠くないとこに
住んどって、ノーサンブリア方言をしゃべっとったんや・・・って
無茶苦茶な設定やないか、これは!

まぁ、細かいことにこだわっとったら、いいおとなになれんっちゅうこったな。
けど、皆も3単現のSはちゃんと付けといたほうがええでぇー。
ほななぁ〜。  

BUCK

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