第4話 すみれのドキドキ発表会

今日は、いよいよ発表会の日。
友枝小学校だけじゃなくて、区の小学校の演劇部が集まって発表する日だ。
今回の会場は、友枝小学校の講堂だ。
あたし達は控え室で、最後の準備をしていた。
「ほんと、知美ちゃんの用意してくれた衣装ってステキだね」
みんなが着ている衣装は、ぜんぶ、知美ちゃんが用意してくれたものだ。
龍平は緊張しまくっている。
「間違えずにセリフいえるかな、お姉ちゃん?」
「大丈夫だよ、いっぱい練習したんだもん。あ、知美ちゃん」
「お待たせしましたぁ。すみれちゃん、龍くん、こちらへいらしてください」
「さ、龍平」
あたし達の着替えの番だ。

その頃、観客席では、さくら達が開演を待っていた。
「友枝小がいちばん最初なんだ。ほぇ?『眠れる森の美女』?」
プログラムを開いた、さくらが聞いた。
「小狼くん、すみれちゃんと龍くんが『眠れる森の美女』に出るって知ってたの?」
「ああ」
「お前が、お姫様をやったんだよな」
桃矢が突っ込む。
「・・・なんで、ここにいるんだ」
小狼が答えにならない言葉を返す。
「すみれが、チケットくれたんだ。せっかくだからな」
「自分だって、シンデレラやったんじゃないか」
「うっ・・・思い出したくない」
小狼の言葉に桃矢が頭を抱える。
「文化祭の写真がいちばん売れたんだよね?」
さくらの言葉がさらに追い討ちをかける。
「なんで、そんなことまで・・・雪か?」
さくらがうなづいた。
「雪兎さん、来れなくて残念だね」
「父さんの手伝いだ。2人とも、残念がってた」
「そうかぁ」
さくらは、プログラムを見直す。
「すみれちゃんと龍くん、なんの役なんだろう。楽しみだなぁ」
小狼が、クスっと笑う。
「あーっ、小狼くん、知ってるんだ。ずるーい!」
「まあな」
「小狼くんのいじわるぅ」

着替えの終わったあたし達は、みんなのところに戻った。
「すみれちゃん、かっこいい!」
「ステキ!」
王子様の衣装を見て、みんなが言った。
「知美ちゃんの用意してくれた衣装がすごいからだよう」
あたしは、照れながら答えた。

「いやだ・・・恥ずかしいよう」
続いて、知美ちゃんに連れられて、龍平がみんなの前に現れた。
嫌がっている。けど、
「龍くん、かわい〜!」
みんなの声が上がる。
思っていた以上に、お姫様の衣装は龍平に似合っていた。
「よく似合っていらっしゃいますわ」
知美ちゃんが、龍平に言った。
「なんで、ぼくがこんなひらひらしたの、着なきゃいけないの?」
「お姫様だからでは?」
「それに、この髪のくるくるはなに?」
「お姫様だからですもの。ほんとうに、よく似合っていますわぁ」
龍平は、もう何も言い返せないようだ。

「ところで、知美ちゃん、この衣装の生地、珍しいね?」
「ええ、実は、すみれちゃんと龍くんの着ている衣装は、我が家に伝わる家宝ですの。
この前、イギリスにいる母に電話した時、我が家に王子様とお姫様の衣装が
保管されていると教えられましたの。おふたりとも、サイズがぴったりで
よかったですわ〜!」
あたしはちょっとあわてた。
「家宝って、そんなにすごいの、あたし達が着ちゃって、本当にいいの?」
「大丈夫ですわ。母に、この劇のことを伝えたら、とても喜んでおりましたもの。
我が家の衣装で、おふたりも、かわゆく美しくできるのは、
とっても幸せですわ〜っと、わたしもかなわないぐらい、母はうっとりしてましたわぁ〜」
「はぅ〜」
あたしの頭におっきな汗が浮いた。この親子って・・・

ナレーションを担当する知美は、調整室に入って行った。
「よぅ!知美、見に来たでぇ!」
迎えたのは、ケルベロスだった。
「いらっしゃい、ケロちゃんさん」
知美があいさつを返す。
「ほんま、この調整室も久しぶりやなぁ」
「さくらさんたちの『眠れる森の美女』の時も、ここにいらしてたんですわね」
「なんや、知っとったんか」
「えぇ、母から聞きました」
「それにしても、いろんな機械が増えとるな。知美、その機械は?」
「これですか?」
知美が端末を操作する。
「これは・・・いろんな所が映っとるやないか」
「みなさんの衣装に埋め込んだ、極小カメラからの映像ですわ。
これで、劇中のすみれちゃんと龍くんをバッチリ撮影できますわぁ!」
「・・・知美・・・」
ケルベロスの頭におっきな汗が浮いた。
「このために、衣装はすべてわたしが用意しましたの。
演出を担当したのも、劇中におふたりを衣装のカメラからバッチリ撮影
できるように立ち位置を決めるためですわ」
「・・・ほんま、ようやるわ・・・」
ケルベロスは固まるしかなかった。

「さぁ、開演時間ですわ」
知美は、マイクに向かった。

劇は、無事に進行していった。
「ほんま、小僧と違って、龍平はお姫様が似おうとるな。
龍平がお姫様っちゅうことは、すみれの役は、ひょっとして、おっ」

いよいよあたしの出番だ。
舞台中央に歩いていく。観客席をちらっと見ると、ママとパパと、
(桃矢おじさん、来てくれたんだ)
あたしは、頬が熱くなるのがわかった。

「小狼くん、これって・・・」
「ああ」
さくらの言葉に、小狼は笑顔を返す。
さくらは、もうひとつの『眠れる森の美女』の思い出を重ねていた。

「おー、ええ感じやないか。すみれも、さくらに負けへんな。
知美、今、気がついたんやけど、あの衣装は」
「はい、さくらさんと小狼さんが着られた衣装ですわ」
「ほぉー、親子やなぁ。ほんま、ええ感じやでぇ」

「ここか、不思議な城というのは」
あたしは、ゆっくりと最初のセリフをしゃべった。

いよいよ、つかさちゃんが演じている魔女と戦うところだ。
「おーほっほっほっほ!やってきたわね、王子!」
「お前が、呪いをかけた悪い魔女だな!」
あたしは剣を抜いた。
「皆の者、やぁーっておしまい!」
「イーッ」
魔女の手下たちが襲い掛かってきた。
あたしは、剣を抜いて次々とやっつける。ここで、バク転だ。
無事に決まった!拍手が聞こえてくる。
最後の手下を倒すと、いよいよ次は魔女を倒す番だ。
「おのれー!王子め!」
つかさちゃんの演技も真に迫っている。目の色が変わるほどだ。
そして、本当に目の色が変わった。
「え!?」
この「気配」、これは、クロウ・カードだ!
つかさちゃんの持っている杖が、突然、剣に変わった。
観客がどよめいた。すごい小道具だと思ったようだ。
つかさちゃんが、剣を構える。
(これ、演技なんかじゃない。本当に、剣術の達人の構えだ)
あたしも、剣を構え直した。

つかさちゃんが動いた。
「!」
ぎりぎりかわせた!舞台のセットが、きれいに切れている。
観客が、またどよめいた。まだ演出だと思っているようだ。
どうしよう、この剣じゃとてもじゃないけど戦えない。
それに、この構えは、あたしのレベルじゃ・・・
その時、
「タイム!」
「すみれ!」
ママがタイムの魔法をかけると同時に、剣を持ったパパが舞台に駆け上ってきた。
「こいつはソードのカードだ!すみれ、すきを見て、その子の手から剣を落とすんだ!」
つかさちゃんは、パパに向かって構え直した。どうやら、このカードは
剣術のレベルの高い人間をねらうらしい。
「うん、でも」
2、3度、剣を交わした後、ふたりはにらみ合いを続けている。
あたしは、杖を手にして見ているしかない。
「どうしよう、すきなんか全然ない・・・」

ふたりのにらみ合いが続いていた。
ケロちゃんも龍平も、パパたちを見守ることしかできない。

突然、つかさちゃんの動きがおかしくなった。
なにかに動きをじゃまされているようだ。
「今だ!」
あたしは、つかさちゃんの手から剣を叩き落とす。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!」
あたしの手に、カードが滑り込んでくる。
気を失って倒れるつかさちゃんを、パパが抱きかかえた。
「すみれ、龍平、劇を続けるんだ。魔力のない人達には、今あったことはわからない」
「うん」
「さくら、今、席に戻るから、タイムの魔法を解いてくれ」
「うん、小狼くん。
すみれちゃん、次は『やったぁ!魔女を倒したぞ!』ってところからだよ!」
「うん、ママ。ほぇ?」
あたしは、不思議に思った。なんで、ママがセリフを知っているんだろう。

物陰に隠れたママは、みんなが元の場所に戻るのを確認すると、タイムの魔法を解いた。

「やったぁ!魔女を倒したぞ!」
あたしは、龍平の寝ているベッドに歩いていく。
「おお、なんと美しい姫君なんだ」
寝たふりをしている龍平は、確かにかわいかった。
シャラーンという音楽とともに、3人の妖精が現れる。
「姫様を目覚めさせることができるのは」
「真に姫様を愛することができる者のくちづけだけ」
「真に姫様を愛することができるならくちづけを」
「うん」
あたしは、ベッドの所までいくと、龍平に顔を近づけた。
いよいよクライマックスだ。
その時、
「いやー!」
「ほえ!?」
一瞬、何がなんだかわからなかった。
「ほんとうは、あたしがぁー!」
「いぇ、あたしよ!」
妖精や、他の役の子達が、あたしたちに突進してきた。
「ほぇ〜!」
あたしは、ベッドのそばからはじき出されてしまった。
(龍平って、ほんとうに女の子に人気があるなぁ・・・)
もみくちゃにされている龍平を見て、あたしはそう思った。

「なんだ、このドタバタな結末は・・・」
舞台を見やる小狼に、さくらは言った。
「あたしたちの時と同じじゃない。
あの時は、ダークとライトを封印できて、うれしくって。
思わず小狼くんに抱きついちゃったんだよね」
「それより、さくら、さっき、気がついたか?」
「うん」

「まぁ、クロウ・カードが現れていたのですか?」
知美が、舞台の上の騒ぎを見ながら言う。
「そや。さくらの魔法で時間が止まっとったさかい、魔力のないもんは
わからへんかったやろが」
「というと、木之本家のみなさんだけが」
「だけやない」
ケルベロスは、知美に聞こえないようにつぶやくと、観客の方を見た。
その先では、劇とは関係のない会話がされていた。

「なるほど。今度のカードキャプターは、クロウ・リードの血をひいているのですね」
「ああ」


次回予告
最近、学校で不思議なことが起きているの。
落として割れた試験管や、砕いたはずの卵のカラが元どおりになってるの。
ねぇ、ケロちゃん、これもクロウ・カードのしわざかな?
え、そんなことをするカード、心当たりがないの?

カードキャプターさくらと小狼のこどもたち
すみれもさくらも知らないカード

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
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