第19話 すみれと知美と大切なもの


「西光寺だ。次のバス停で降りるんだよね」
今、あたしは、知美ちゃんのおうちに向かうバスに乗っている。

→回想シーン
きのうのお休み時間のとき
「ほぇ?知美ちゃんのおうちに?」
「ええ。ちょっと困ったことがありまして・・・すみれちゃん、よろしければ、あすの日曜日、
うちに来ていただきませんか?」
「知美ちゃんのおうちに行くのはうれしいけど、困ったことってなに?」
「それは、あしたご説明しますわ」
←回想シーン終わり

「・・・知美ちゃん、なにがあったんだろう?」
そのとき、あたしのたまごさんリュックの中から
「・・・うぐうぐうぐ・・・苦しい!」
ケロちゃんが飛び出した。
「あ!」
あたしは、思わずリュックのジッパーを閉じる。
「!」
バスの乗客の視線があたしに集まるのがわかる。
「あ、なんでもありません」
あたしはあせってごまかした。
「・・・だめだよ。ケロちゃん」
「そやかて、中の空気が」
「もうちょっとだから、がまんして」
「もう限界や」
「もうちょっとだから、ね、ね。次だからがまんして」
「・・・すみれ、今、他の客の視線が集まっとるんやないか?さくらの時と時代は変わっとるんや。
ロボペっちゅうことにすれば、わいをカバンの外に出しても変に思われへんで」
「・・・そっか。ごめん」

バス停を降りて、知美ちゃんのおうちに歩いて行く。
「いつ来ても、でっかいうちやなぁ」
「ケロちゃん、リュックに乗って。いくらロボペでも空を飛ぶのはおかしいから」
「わかった」
ケロちゃんがたまごさんリュックに乗るのを確かめてから、あたしはインターホンを押す。
「はい。どちらさまでしょう?」
「木之本です」
「いらっしゃいませ。今、門を開けます」
いつものように、大きな門が開いていく。
そしていつものように、大きなおうちに進んで行くと噴水を過ぎたあたりで玄関のドアが開いて
「すみれちゃん!」
「こんにちは」
「いらっしゃい!」
「よう!知美!」
「こんにちは、ケロちゃんさん」

「どうぞ。わたしの部屋へ」
あたしたちは知美ちゃんのおうちに入る。すると
「お嬢さま?」
メイドさんが、知美ちゃんに声をかける。
「お茶はどちらにお持ちしましょうか?」
「じゃ、わたしの部屋に3つ」
「3つですか?」
メイドさんが、不思議そうに聞き返す。けれども知美ちゃんは、こくんとうなずくと
「お願いしますね」
と、あたしの手を引っ張って歩き出した。

すみれたちが立ち去ったあと、そのメイドはつぶやいた。
「これが、あの大道寺家の7不思議のひとつ、『わたしの部屋に3つ』・・・」

知美ちゃんのお部屋に入る。
まもなく、ドアがノックされて
「どうぞ」
「お嬢さま、お茶をお持ちしました」

メイドさんが部屋を出ると、
「そうだ。これ、ママが知美ちゃんにって、クッキー焼いてくれたんだよ」
あたしは、たまごさんリュックから、ママが作ったクッキーを取り出した。
「まぁ。ありがとうございます。では、ケロちゃんさんもいっしょにいかがですか?」
「わーい!クッキーや!」
ケロちゃんはごきげんだ。

あたしたちはしばらくおしゃべりを楽しんだ後、
「ところで知美ちゃん、困ったことってなに?」
「実は・・・今、お持ちしますわ。母の部屋にありますの」
知美ちゃんは部屋を出るとすぐに戻ってきた。両手で箱を持っている。
「その箱、クロウ・カードの気配がする」
「知美、その箱、見覚えあるでぇ!」
ケロちゃんは少し興奮しているようだった。
「確か、シールドのカードがとりついていた箱や」
「というと、撫子おばあちゃんの結婚式のときのブーケと、ママが知世おばさんにあげた消しゴムが
入っている箱なんだね」
「そうです。祖母と母がとても大切にしている箱ですわ」
「また、開かなくなっちゃったの?」
「それもあるのですが、わたしの手元を良く見てくださいな」
「ほぇ?」
あたしは知美ちゃんの手元を見直した。箱と知美ちゃん手の間にすきまが・・・
「ほぇ〜?これ、宙に浮いてるよ!?」
「宙に浮いているのではありませんわ」
知美ちゃんは、箱をテーブルの上に置いた。テーブルと箱の間にすきまが見える。
「なにか透明なクッションのようなもので包まれているみたいですの。ほら」
そう言って、知美ちゃんが指で箱を押さえると−やっぱり、指と箱の間にはすきまができるんだけど−
箱はゆっくりと少し沈んだ。そして知美ちゃんが指を離すと箱はゆっくりとせり上がった。
「ほんとうだ。見えないクッションで包まれているみたい」
「そこがさくらさんが封印してくださったときとは違いますの。けれども、見ていてくださいね」
知美ちゃんはポケットから鍵を取り出した。その鍵で箱を開けようとすると・・・

ぽよーん!

箱に近づいた鍵は、はじかれた。
「ひさしぶりにこの箱を開けようとしたらこの調子で・・・」
「確かにこれはクロウ・カードのせいやな」
ケロちゃんが箱に近づいて、ちょん、とつつく。

ぽよーん。

「!」

「見えたか、すみれ」
「うん。なにかバリアみたいなものが」
「そうや。さくらの時とはちょっと違うが、やっぱりこれもシールドのカードや」
「というと、ママの時と同じようにソードでシールドを切ればいいのね?」
「シールドは切られたら本体表すさかい、そこをすかさず封印や!」
「すばらしいですわ。では、さっそく衣装とビデオの準備を」
「・・・」
いつの間にかしっかりバトルコスチュームとビデオカメラを用意している知美ちゃんを見て、
あたしの頭におっきな汗が浮いた・・・

「りりしいですわ〜」
バトルコスチュームに着替えたあたしを見て、知美ちゃんはご機嫌だ。
「カメラも準備OKですわ。では、すみれちゃん、こちらでどうぞ」
「う、うん」

あたしはカメラの前で呪文を唱えだした。
「光の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、すみれが命じる」
「封印解除(レリーズ)!」

「クロウの作りしカードよ。我が鍵に力を貸せ。
カードに宿りし魔力を、この鍵に移し、我に力を!ソード!」

封印の杖がソードに変わる。あたしは箱に向かって

「ハァーッ!」

ソードを振りおろした。ソードから伸びた魔力がシールドを切り裂こうとしたとき

ばぽん!

「キャッ!」

あたしはソードごとはじき返されていた。
「すみれちゃん、だいじょうぶですか?」
「うん、だいじょうぶだよ。でも、どうして・・・?」
「シールドが柔らかすぎるんや。すみれの魔力じゃ、その柔らかさを押し切れないんや」
「そんな・・・」

ケロちゃんは話を続けた。
「シールドは大事なもんを守るためのカードや。より大事なもんを守ろうとする性質がある。
こないにクッションみたいになっとるっちゅうことは、この箱の中身はかなり壊れやすいもんなんやろな」
「それで・・・」
知美ちゃんは納得したようだった。
「知美、この箱の中身はなんや?」
「ブーケと消しゴムですわ」
「それって、ママがカードさんを封印したときとおんなじだよね」
「はい。ところが、ブーケがさくらさんが封印されたときとは違うのです」
「違うって、どんなふうに?」
「いま、とてももろくなっているのですわ。このブーケは、すみれちゃんのおばあさまが結婚されたときの

ブーケです。祖母はとても大切にしています」
「うん、それは知っているよ」
「では、すみれちゃんはご存知でしたか?このブーケが生花(せいか)だということを」
「ほぇ?それっておかしくない?なんで何十年も枯れずにいるの?シールドのカードさんを封印したとき、

ブーケがとってもきれいで香りもすてきだったって、ママが言ってたよ」
「結婚式のあと、祖母がすぐに保存処理をしてもらったのですわ。それでさくらさんが封印したときも
枯れずにいたのです。けれども・・・」
知美ちゃんは、箱の方を見た。
「当時では最新の技術だったのでしょうけれど、不完全でした。時間がたつにつれて花びらが硬く、
もろくなってきたのです。このままではだめだと思い、最新の技術で処理しなおそうとしたら、
またシールドにとりつかれてしまって・・・早くしないとブーケがぼろぼろになってしまいますのに」
「そうか、それでシールドが、中のブーケ守ろう思うてクッションみたいになってるやな」
「でも、どうしよう。このままシールドさんを封印できないと、中のブーケがだめになっちゃうよ」
「そうやなぁ・・・」

あたしたちが考え込んでいると、
「なんや、この気配は?」
「チュルミンだよ。チュルミンが、実体化したがってる」
あたしは、チュルミンのカードを取り出した。カードがわずかに光っている。
「なんや、こないなときに?」
「きっと、実体化してすみれちゃんを助けたいと考えておられるのでは?」
「そっか。サンダーさんの時も、チュルミンが封印のしかたを教えてくれたんだ。チュルミンなら、
シールドさんの封印のしかたを知っているのかもしれない。ケロちゃん、また姿借りていい?」
「え〜?またかいな?」
「お願い。あたしの姿に変えたら、きっとややこしいことになるから」
「ま、緊急事態やし、しゃあないな」
「ありがと」

あたしは呪文を唱えた。
「彼の者の姿を映し、もうひとりの彼となれ、チュルミン!」

・・・ぺらっ。

カードはそのまま床に落ちた。
「どうして?」
すると、チュルミンのカードから
「あほーっ!うちはあくまでもミラーのカードなんや!チュルミンと呼んでも召還できんでぇ!」
「ご、ごめん」
あたしはカードを拾うと、もう1度
「彼の者の姿を映し、もうひとりの彼となれ、ミラー!」

カードが魔力につつまれ、実体化していく。すると
「なに、この音楽は!?」
どこからか、音楽が聞こえてきた。

「・・・あなたに伝えたいほんとうの想い。
言いたいの 言えないの チャンス逃してばかりのあなたに
まっすぐな想いとちょっぴりの勇気を。
愛と勇気の天使、チュルミン登場!

愛の告白はおまかせよ!」

「・・・・・・」

「なんや?みんな、そないに固まって?」
チュルミンが決めポーズを解いて、不思議そうに聞く。
「・・・チュルミン」
「なんや、すみれちゃん?」
「今のは何?」
「魔法少女のお約束や。登場シーンには決めぜりふと決めポーズはつきもんやろ?
今の曲も自分で作曲したんやで」
「・・・」
あたしが、次のことばを探していると
「すばらしいですわ〜」
「ほんまか?」
「ほんとうですわ〜。今の登場シーン、ばっちりビデオで撮影しましたわ〜!」
「そうか、いいもんはやっぱり理解されるんやなぁ!」
チュルミンはケロちゃんを見つけると、そのそばに飛んでいって
「どうや、ケロはん。知美ちゃんもああ言うとる。あんたよりうちの方がずぅーっとイケてるでぇ!」
「なんやと!わいのほうがずぅーっとナイスで素敵なんや!」

また、ふたりの掛け合いが始まった。

「もう、ふたりともやめてよ。今はカードさんの封印が先でしょ?」
「そっか。そやったな。すまん、すまん」
チュルミンはあたしのところに飛んできた。
「チュルミン、ひょっとしてシールドさんを封印する方法を知ってるの?」
「もちろんや」
「よかったぁ。で、どうすれば封印できるの?」
「ツボや」
「ツボ?ツボって、中に何か入れたりする・・・」
「ちゃうちゃう。すみれちゃんがぼけてどうすんねん。気功で言うツボ・・・とも少し違うかな。
すみれちゃんも、テレビなんかで武道家が手刀で石を割ったりするの、見たことあるやろ?」
「うん」
「他にも、石大工さんがノミを入れる場所を入れる場所とか。うまく当たれば、きれいに石が
割れるんやけど、そこを間違えると、うまく割れないところ。ま、人によって呼び方は多少違うんやけど
シールドのカードにも、ここを攻撃すればひとたまりもないっちゅうツボがあるんや。
そこをやれば、シールドはものを守りきれなくなって封印できる」
「でも、シールドさんのツボって、どうやって見分けるの?」
「まぁ、見ててぇな」

チュルミンは、箱のそばに降りた。シールドさんを、ちょん、ちょん、とつつく。

「どう?」
「・・・わかったでぇ。ツボは、こことここの2か所や。こことここを同時に」
「そんなぁ。ソードさんじゃ、2ヵ所を同時に切れないよ」
「切る必要はない」
「ほぇ?切る必要はないって、それじゃどうするの・・・?」
チュルミンは、シールドさんに両腕を伸ばして

「くすぐるんや!」

ズザーッ(←すみれたちがコケる音)

こちょこちょこちょ・・・

チュルミンのくすぐりが始まった。

こちょこちょこちょ・・・

あたしたちの頭に、おっきな汗が浮いている。
「なぁ、すみれ」
「なに、ケロちゃん?」
「ほんまに、これで封印できるんやろか?」
「さぁ・・・けど、これしか方法はないみたいだし・・・」
「そうかもしれんが、こないな情けない封印方法は、初めてや」
「そ、そうだね」

あたしたちは、チュルミンのくすぐりを見ているしかなかった。そのうち、
「ほぇ?ケロちゃん、シールドさんの気配が」
「すみれも気づいたか?確かに、気配が不安定になってきとる」

こちょこちょこちょ・・・

シールドさんの中の箱が揺れてきている。チュルミンのくすぐりにがまんできなくなったみたいだ。

こちょこちょこちょ・・・

そして、シールドさんの気配が急に強くなったと思うと
「あかん!」
「きゃーっ!」
「知美ちゃん!?」

チュルミンのくすぐりでシールドさんががまんしきれなくなって、今度は知美ちゃんを中に
取り込んでしまったんだ。今度は、知美ちゃんにもシールドさんが見えるみたいだ。
「どうして・・・こんなことに」
「想いの強さや」
「どういうこと、チュルミン?」
「シールドは大切にされているもんを守ろうとする性質がある」
「ほぇ?」
「あの箱の中にあったんは、撫子おばあはんのブーケと知世おばはんの消しゴムや。
今、そのふたりはここにおらへん。だから、どうしても大切にしよう想いが弱くなってしまってるんや。
すみれちゃん、すみれちゃんが一番大事に想うとるもんは、この部屋の中の何や?」
「それは知美ちゃん・・・そっか、それで」
「そうや。そやから、シールドはあの箱から知美ちゃんに守る対象を変えたんや」
「でも、どうしよう。このまま知美ちゃんがシールドさんから出られなかったら」

あたしは知美ちゃんの方を見た。

「待ってて、知美ちゃん!今、助けるから!」

「ソード!」

あたしはもう一度、ソードのカードさんを使った。

「ハァーッ!」

ばぼん!

「きゃっ!」

けれどもまた、あたしははね返されただけだった。

「だいじょうぶ、すみれちゃん?」
「だいじょうぶだよ、チュルミン。けど、ソードで切れないとなると、どうすればいいの?」
「チュルミンがさっきみたく、くすぐればええやないか?」
ケロちゃんのことばにチュルミンは首を横に振った。
「あかん。あのシールドを見てみぃ。大きくなっただけあって、ツボの数も増えとる。
こっち側から見えるだけでも、11か所はあるで。それだけのツボを同時にくすぐるなんて無理な話や」
「そんな・・・」

あたしたちは考え込んだ。

「ねぇ、チュルミン。どうすればシールドさんを封印できるのか、もう一度教えて」
「ひとつは、さくらさんのときのように、シールドを力で破った場合や。けど、いまのすみれちゃんの
魔力じゃ、シールドを破るにはまだ少し足りないようやし、ツボを攻めるには数が多すぎて
どうにもならんし・・・」
「いま、ひとつって言ったよね?他にも方法はあるの?」
「ないことはない。けど、考えにくいんやな。これが」
「それでもいいよ。教えて」
「もうひとつの場合は、シールドの守る対象が外に出てしまった場合や。そうすればシールドは力を失う。
けど、魔力のない知美ちゃんがシールドの中から外へ出るなんて無理や」
「そっか!外に出せばいいんだよね」
「なんか、思いついたんか、すみれ」
「ケロちゃん、うまくいくかどうかわからないけど、やってみる。知美ちゃん、危ないから反対側に
下がっていて!」
「はい」
知美ちゃんが反対側に下がるのを見て、あたしは知美ちゃんのお部屋の天井を見上げた。
このお部屋はメゾネットタイプで天井が吹き抜けになっている。この高さならだいじょうぶだろう。

「じゃ、行くよ!」

あたしは両手を空けるために、封印の杖を投げ上げた。それと同時に
「ハァーッ・・・タタタタタタ!」
両手の拳を連続してシールドさんにたたきつける。シールドさんが反動であたしをはねかえそうとする。
その力を利用をしてからだを回転させ、あたしは背中から思いっきりシールドさんの中に沈みこんだ。
(きたっ!)
そこにちょうど投げ上げた封印の杖が落ちてくる。
「今だ!」
あたしは、杖と手にすると同時にカードさんを取り出した。
「空間を歪め、中と外を入れ替えよ!ループ!」

「ループか!なるほど、ループなら中にいる知美を外に出すことができる」
「ケロはん、こないな使い方、クロウはんでもしなかったでぇ」
「ああ」
ケルベロスは、すみれがウィンディを封印したときのことを思い出していた。
あの時も、とらえどころのない風の精霊をループを使って狭い空間に閉じ込めて封印したのだ。
この子は、時々、母親以上の才能をかいまみせる。クロウ・リード以上の魔力を持つ母親を超える
可能性を持っているのかもしれない。
(けど、さくらとは違うんや。どんなにカードを使うのがうまくても、すみれの場合は・・・)
だが、ケルベロスの思考はチュルミンの声によって中断された。
「シールドの魔力が弱まってきたでぇ!もうすぐや!」

まもなく、シールドの外に不思議そうな顔をした知美の姿が現れた。
「チュルミンさんにケロちゃんさん。おふたりがいるということは?」
「成功や!知美ちゃんが無事に出れたんや!」
「まぁ!」
知美がふり返ると、シールドの中にすみれがいるのが見えた。


「まぁ!」
知美ちゃんの声が聞こえると同時に、封印の杖に感じていた力が消えた。
シールドさんの抵抗がなくなったんだ。
「知美ちゃん、出れたんだ」
あたしがそう言うと、シールドの向こうにいる知美ちゃんがにっこりと微笑んだ。
「「今や、封印や!」」
ケロちゃんとチュルミンが、同時に叫んだ。
「うん。汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!」

ピン!という音がして、封印の杖の先にカードができていく。
しばらくすると、あたしの手にシールドのカードさんがすべりこんできた。

「やったぁ!」
「ありがとうございます。すみれちゃん」
「知美ちゃん、だいじょうぶ?ケガとかなかった?」
「だいじょうぶですわ」
「よかったぁ!」
あたしは、思わず知美ちゃんに抱きついた。
「ごめんね、知美ちゃん。あたしが最初からうまく封印できてれば、こんなめにあわなくても
よかったのに」
「とんでもありません。すみれちゃんなら、きっと何とかしてくださると信じてましたわ」
「・・・知美ちゃん」
あたしが、次になんて言おうかことばを探していると
「それに、今のすみれちゃんの活躍、ばっちり撮影できましたし」
「・・・はぅ」
お約束だけど、あたしの頭におっきな汗が浮いた。

「では、あけますわ」
知美ちゃんが、鍵を鍵穴に差し込むと、カチャ、という音がしてふたがあいた。
「わぁー」
あたしは思わず声をあげた。
「これが、撫子おばあちゃんの結婚式のブーケ」
「ええ。残念ですが、もろくなっていますので見るだけにしてくださいな」
「うん。でもほんとうにきれいなブーケだね」
ママから話も聞いているし、知世おばさんが撮ったビデオで何回も見てるけど、ほんとうにきれいな
ブーケだった。おばあちゃんが大好きだった桜の花。それが、ママの名前になったんだ。
「わたくしも、いつかお作りしますわ。すみれちゃんの結婚式のブーケ」
「とつぜん、なにを言うの、知美ちゃん?!」
知美ちゃんのことばに、あたしは少しあわててしまう。
「うちもや。すみれちゃんの結婚式はぜひ招待してや」
「あら、チュルミンさん。実は、すみれちゃんはもう結婚式を挙げているのですわ」
「ほんまかーっ?!相手は誰や?!」
「知美ちゃん!」

そんな3人のドタバタを横目に
「女の子は、ほんま、結婚式とか夢みるんやなぁ。そないなもんより、わいは、このケーキの方が、
なんぼかええでぇ。3人とも、よろしくやっててやぁ」
と、ご機嫌でフォークを動かすケルベロスがいた。

そのころ、廊下では、チュルミンの分も入れて追加のお茶とケーキを持ってきたメイドが、
つぶやきながら歩いていた。

「これが、あの大道寺家の7不思議のひとつ、『わたしの部屋に4つ』・・・」

<すみれと知美と大切なもの:終劇>

次回予告
きょうはパパが香港から帰って来る日。
ママは空港までおむかえで遅くなるから
晩ご飯はあたしと龍平で作るんだ。

はぅー。あたしって、やっぱりお料理向いていないのかなー?

そんな時にクロウ・カードの気配が!
ほぇーっ!このカード、あたしひとりじゃ封印できないよ!?

カードキャプターすみれ さくらと小狼のこどもたち
すみれのしゃりしゃりハンバーグ

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
封印解除(レリーズ)! <<NEXT

BUCK

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