第18話 すみれとかがみの迷コンビ?

「あれ?」
あたしはまっしろな部屋にいる。部屋にはベッドがひとつ。
「龍平?」
ベッドに寝ているのは龍平だった。
肩で息をしている。苦しいはずなんだけど、龍平の表情は不思議に安らかだ。
「どうしたの龍平?どこか悪いの?」
龍平の口元が動く。え?聞こえないよ?
なにか言っているようだ。でも、でも・・・
「龍平、龍平ったら。ママ、このまま龍平が」
「・・・すみれちゃん」
あたしはママの顔を見た。
「・・・すみれ」
声の方を向くと、そこにはパパがいた。
「・・・すみれさん」
別の声の方を向くと、そこにいたのは、エリオルおじさんだった。

ピピピピピ・・・
「あふぅ。もう朝かぁ」
あたしは、もそもそっとベッドから起き出した。
制服に着替えようとして、クローゼットを開けると
「ほぇ?」
いつものところに制服がない。
「おかしいなあ。ママがクリーニングに出したのかな?」
あたしは別の制服に着替えると、カードさんたちにあいさつをして、おそよー君を起こしに行く。
「おそよー!ほぇ?」
ベッドの中に、龍平の姿がない。
「・・・おかしいよ。龍平がひとりで起きられるわけないし・・・『ひとりで』?!そうだ!」
あたしは、あわてて1階のダイニングに降りた。
「・・・やっぱり」

「お、おねえちゃん?」
あたしの姿を見て、龍平が少し驚いた。
「すみれ?」
ケロちゃんも驚いている。
「と、いうことは、さくらんのとなりにおるんは・・・」
「かがみさんでーす!」
キッチンで、ママといっしょに朝ごはんのしたくをしている、もうひとりのあたしが
ミョーに明るく答えた。

「ママは、かがみさんだと気づかなかったの?」
「うん、ぜんぜん」
「さすが、うちや。さくらさんにも気づかれないぐらい完ぺきに気配を消しとる」
たしかに、かがみさんは気配を完全に隠せるみたいだ。
「けど、ママ」
「なに?」
「あたし、かがみさんほどお料理じょうずじゃないよ。いっしょにお料理していれば、あたしか
かがみさんかすぐにわかると思うけど」
「すみれ、おとりこみ中、悪いんやけど」
そこに、ケロちゃんのツッコミが入った。
「自分のほうが料理がヘタなんて、せりふ、えらそうに言うことか?」
「そ、それもそうね」
あたしたちの頭に、おっきな汗が浮いた。

「いただきまーす」
あたしたちは食べ始めた。きのうもそうだったけど、かがみさんの作るオムレツはとってもおいしい。
「ほんとう、かがみさんが手伝ってくれて助かるわ。すみれちゃん、朝からかがみさんを召還
してくれて、ありがとう」
「あたし、かがみさんを呼び出してないよ」
「ほぇ?」
ママの手が止まる。
「なんやて?すみれが呼び出していないのに、カードが実体化したっちゅうのか?」
ケロちゃんの表情もきびしくなった。

「ど、どういうことなの、かがみさん?」
みんなの質問に、かがみさんはソーセージをパクッと食べて
「さぁ〜なぁ〜。それを教えたら、番組にならないやろ」

ズザーッ(←すみれたちがコケる音)

「た、確かにそうね・・・ってわけないでしょ!」
あたしは、いつのまにかおでこについていた、ばんそうこうをはがしながら答えた。
「そうや。すみれは、おまいさんを封印しよった。封印されたカードがあるじの知らんところで
実体化するなんぞ、もってのほかや!なにがあったんや!?」
「それが、うちにもよくわからんのや」
「わからない?」
「そうや。カードに戻ってから、うちは、もういっぺん、すみれちゃんの姿になれへんのかと
考えとった。本人になりきって、トラブルを起こすっちゅうんがミラーのカードのお約束みたいな
もんやからな。そうしたら、明け方ごろにすみれちゃんの魔力がふぅーっと弱まってきて、気が
付いたら、うちは実体化していたんや」
「あたしの魔力が弱まってた?」
「そうや。弱まっていたんやなかったら、すみれちゃんがなんかに魔力を使うていて、カードを
制御する余裕がなかったのかもしれんな」
「でも、あたし、寝ていたんだよ。魔力を使ってなんていないよ」

そこにケロちゃんが言った。
「すみれ、寝てる間でも、魔力を使うことはあるんや」
「ほぇ?」
「たとえば、正月に見た夢。予知夢を見とる時は、魔力を使うとる」
「予知夢?龍平の?」
「ぼくの?」
突然、名前が出てきて、龍平がびっくりしている。
「あ、はははは・・・」
あたしは、なんとかごまかそうとした。
「今年のお年玉、龍平の方がたくさんもらっていたでしょう?あれ、あたしが夢で見ていたんだよ。
ね、ママ」
あたしがそう言うと、ママも
「そ、そうね。あの時、すみれちゃんはとってもくやしがっていたわ」
なんとか話を合わせてくれた。あの夢のことは、龍平には言わないって、あたしはママとパパと
約束してるんだ。だって、もし、あの夢が本当だったら、龍平になにか大変なことが起こるかも
しれない。そんな夢、絶対、当たらない。当たらないんだ。

「ごちそうさまぁ」

朝ごはんを食べ終わったあたしたちは、食器をかたづける。
「急がないと、学校に遅れるよ」
そう言ったのは、ママでもあたしでもなくてかがみさんだった。
あたしは、すこしいやーな予感がした。
「かがみさん、ひょっとして学校に行くつもり・・・?」
「もちろんや!」
「そ、そんな、だめだよ!あたしがふたりもいたらたいへんなことになっちゃうよ」
「それやったら、すみれちゃんは、今日はお休みにしたらええやないか」
「なに、言ってるの!」
「ミラーのカードのお約束や。本人になりすまして騒ぎ起こさんとな」
あたしの頭に、おっきな汗が浮いた。
「騒ぎって・・・何考えてるの?!」
「せっかく、すみれちゃんになりきってんのや。昨日できへんかった愛の告白とか」
「そんなの、だめ、だめ、だめーーー!!!!」
あたしは、あわててかがみさんを止めていると、とつぜんケロちゃんが
「餡の紅白・・・まんじゅうやて?」
と聞いてきた。『愛の告白』がそう聞こえたらしい。
「ほぇ?・・・紅白まんじゅう?」
なんか、強引に話がヘンな方向に向かっている。

「紅白まんじゅうの何がだめなんや?」
ケロちゃんが目をパチクリさせる。そして、
「あ〜、ひょ〜っとして、すみれ、今日は学校でなんかめでたい行事かなんかあって、
紅白まんじゅうもらえんのやろ?」
「ど、どうしてそうなるの・・・」
あたしの頭に、またおっきな汗が浮く。
「そうや、そうに決まっとる。そんな大切なことをわいに隠して、こっそり食べようしとったんやろ。
かがみ、どないな餡の紅白かわからへんけど、紅白っちゅうことはめでたいっちゅうことや。
がんがんやったれ!わいも応援しとるでぇ!」
「おおきに、ケルベロスはん!すみれちゃんの告白、がんがんやるさかい!」
「そんなら、わいの分も忘れんといてやぁ〜!」
「もちろんや!」
「ふたりともわけわかんないよ・・・」
このままだと、ほんとうにかがみさんが学校に行っちゃう。学校に行っちゃったら、騒ぎになるに
決まっている。とつぜん、同じ姿をしたふたりも現れるなんて、・・・同じ姿をしたふたり?!
そうだ!

「封印解除(レリーズ!)」


「すみれちゃん、急にどうしたの?」
「ママ、ががみさんがこのままあたしの姿で学校に行ったら、たいへんなことになっちゃうよ。
だから、かがみさんをケロちゃんの姿にするの!」
「なんやて!?」
反応したのはかがみさんだ。
「うちはこないなぬいぐるみになりとうない。すみれちゃん、お願いだからそれだけはやめてぇな」
「なんやと!わいは封印の獣、ケルベロス様や!ぬいぐるみとちゃうで!」
あたしは、ふたりにかまわず杖を振り上げた。

「彼の者を姿を映し、もうひとりの彼となれ。かがみ!」

「ほぇ?」
杖を振り下ろしたけれども、なにも起こらない。

「それじゃあかんでぇ、すみれちゃん。さくらさんが『かがみ』っちゅう名前付けてくれたけど、
うちはあくまでもミラーのカードや。『ミラー』って呼んでくれへんと発動できんさかい」
「そっか」
かがみさんのことばを聞いて、あたしはもう一度杖を振り上げた。

「彼の者を姿を映し、もうひとりの彼となれ。ミラー!」

杖を振り下ろすと、かがみさんは光に包まれた。
「こないになるってわかうとるのに教えてしまうなんて、うちはほんまにアホやーーーっ!」
やがて、かがみさんを包んだ光が消えていった。

「くすん・・・くすん・・・」

テーブルの上には、○| ̄|_になっているかがみさんがいた。

「こないな情けない姿・・・おかんに見せられへん・・・うちはカードやからおかんはおらんけど」
「なんやと!」
おこったのはケロちゃんだった。
「せっかく、わいのナイスで小粋な姿になっておいて、情けないやと!その姿、よ〜く見るんや!」
そう言って、ケロちゃんはかがみさんの前に鏡を置いた。
「そんな殺生な、ケルベロスはん・・・」
かがみさんはよろよろと起き上がると、鏡を見る。

「!」

「けっこう、かわいいやないか〜〜〜!」
ママのミラーさんと違って、かがみさんは姿を映すときに1か所だけ違った姿になる。
ケロちゃんと違うのは、かわいらしいチョーカーを着けていることだ。
「今のかがみさんは、チュルミンって感じだよね」
あたしがそう言うと、チュルミンは目をきらきらさせて、
「ほんまや。これならアニメ化はねらえるわ。ほんま、ありがとうな、すみれちゃん」
チュルミンは、ほんとうに気持ちを切り替えるのが早い。
「どうや、ケロはん。あんたよりうちの方がずぅーっとイケてるでぇ!」
「なんやと!わいのほうがずぅーっとナイスで素敵なんや!」
ふたりの掛け合いが始まった。これなら学校に行けそうだ。

「ふたりとも、そろそろ学校に行きなさい。急がないと遅刻しちゃうわよ」
「そうだね、ママ。じゃ、龍平、行こう」
「うん」
「いってきまーす!」


「おはよう!間に合ったぁ!」
あたしは、教室に駆けこんだ。
「おはようございます、すみれちゃん」
「おはよう、知美ちゃん」
「きょうはすみれちゃんにしては珍しく、遅刻すれすれですわね。龍くんは、もう学校に
来ていたみたいですけど」
「うん。途中で忘れ物取りに、あたしだけ一度家に戻ったんだ」
けさは、チュルミンのこともあって家を出るのが遅かったところに忘れ物。
学校に着いたのは本当に遅刻すれすれだった。ランドセルを机に置くと同時に、朝のホームルームの
チャイムが鳴った。
「みんな、おはよう」
神宮寺先生が教室に入ってきた。

あたしはノートと鉛筆だけでも出そうと、ランドセルのふたを開けると、

ぱかっ

という音とともに、花束がぴょこんと飛び出てきた。
「ほ、ほぇ?」
そして、その花束を抱えて、ランドセルの中からせり上がって来たのは
「チュ、チュルミン?!」

チュルミンは、あたしの方をチラリと見て、にこっと笑うと、そのからだよりも大きな花束を
思いっきり差し出して、
「すみれちゃんは、あなたのことが大好きです。愛しています。どうかお付き合いしてください」
「ほ、ほぇ・・・」
突然のことで、あたしが固まっていると、チュルミンはもう一度あたしの方に振り向いて
「どうや?すみれちゃんにかわって、愛の告白してやったで」
あたしは、ますます固まった。

次の瞬間、

「ありがとう。でも、残念ね。先生は女だから」

みんながどっと笑う。自分のからだより花束が大きくて見えなかったんだろうけど、
チュルミンが花束を差し出していたのは、衛くんにではなく、あたしの席にまでやって来ていた、
神宮司先生だった。
「木之本さん、誰かさんに愛の告白をするのなら、ホームルームじゃなくて、ふたりっきりの方が
いいんじゃないかしら?」
「ほ、ほぇ」
「それに、学校にロボペ(ロボットペット)を持ってくるのはいいけれど、スイッチ入れるのは
休み時間だけにしてほしいな」
「す、すみません。今、スイッチ切ります。芸人モードに入っちゃってて・・・」
あたしは、チュルミンを抱き上げた。そして小声で
(お願いだから、お昼休みまでランドセルの中でおとなしくしてて)
(いやや。せっかく愛の告白をしに来たのに)
(いいから、おとなしくしてて!)

「木之本さん、なにロボペと遊んでいるの?」
先生が聞くと衛くんが
「木之本さんのロボペは音声認識できるんです。今、それでスイッチを切っているんですよ」
「そうなの?」
先生が不思議がる。確かに、音声認識でスイッチを切るロボペは珍しいらしい。
「フードファイトの時もそうだったから。でも、木之本さん、きょうのはフードファイトの時の
ロボペとは違うよね」
「う、うん。あの後、パパが香港の信和中心で新型を買って来てくれたんだ。見てのとおり、
芸人モードがパワーアップしてるんだよ。あは、あははは・・・」
あたしは、なんとかごまかすと、チュルミンをランドセルにしまいこんだ。

そんなすみれの姿を見ながら、
(ミラーのカードを実体化させたら、ケルベロスの姿を映したのか・・・
すみれさんとミラーのコンビで、今度のカードは封印できるかな)
と考える衛だった。

「・・・ここなら、だいじょうぶだと思いますわ」
「うん」
やっとお昼休みになって、あたしと知美ちゃんは校庭の人目の付かないところに移動した。
ランドセルを下ろして、ふたをあける。
「チュルミン、お昼だよ」
長い間狭いランドセルにいたから、早くチュルミンをランドセルから出してあげようと思っていたら
「??・・・なに、これ?!」
「どうかなさいましたの?」
「・・・むにゃむにゃ・・・うるさいなぁ。せっかく人が・・・ってうちは人やあらへん。
せっかくカードが気持ち良く寝とると言うのに・・・」
「チュルミン、あたしのランドセルにいつの間に・・・」
チュルミンは、ランドセルの中にハンモックをぶらさげて、気持ちよさそうに寝ていたのだ。
「よく寝たーーー」
「よく寝たって、あたしのランドセルの中にそんなもの付けないでよ」
「仕方あらへんやないか。授業のじゃまをせいへん思うたら、寝るのが一番やけど、このままやと
教科書がからだにあたって、痛いんや」
「だからといってハンモックなんて」
「ハンモックだけやない」
「・・・ハンモックだけじゃない?」
「朝、花束を出したときに使ったんやけど、せり上げ装置も付けたんやで」
「なんですってーーーっ!?」
「落ち着いてや。これはせり上げ装置やから、めんどいクレーン等安全規則も適用除外やし、
おかげでうちの登場シーンの演出がごっつう効果的になったやないか」
「そんな問題じゃない!」
「大道具にお詳しいのですね」
知美ちゃんが聞く。知美ちゃんは演劇部だから、そのへんに興味を持ったみたいだ。
「まぁ、いろいろとな」
「ごあいさつがまだでしたわね。わたくしは、大道寺知美です。はじめまして」
「はじめまして。うちの名前は、チュルミン。このアニメの主人公や!」
「主人公って・・・」
あたしの頭におっきな汗が浮いた。けれども、知美ちゃんは
「すみれちゃんもがんばらないと、主役の座を奪われますわよ」
「知美ちゃん・・・そんなにさらっと言わなくても・・・」
「それにしても、ほんとうによくできてますわね、このロボペ」
「ロボペやない!うちは、クロウ・カードや!」
「まぁ?」
知美ちゃんは、あたしの顔を見る。
「ほんとうですの?」
「うん」
「すると、チュルミンさんは『ケロちゃんさんもどき』のカードなんですの?」

ズサーッ(←すみれとチュルミンがコケる音)

「ち、違うって。チュルミンは、ミラーのカードさんなんだよ」
あたしは、いつの間にか付いたばんそうこうをはがしながら、きのうからの出来事を話し出した。

「・・・それは残念でしたわ。きのうのことをビデオに撮影できなくて」
知美ちゃんのお約束の反応に、あたしの頭に汗が浮く。
「ほんま、残念やったな。きのうは名場面の連続やったでぇ。主人公のうちが消えかけるところ
なんか、これまでの最高視聴率やったんや」
「どうして、そんなことわかるのよ。まだ日報(テレビ視聴率日報のこと)出てないのに」

・・・

一瞬の間の後、チュルミンはあたしたちの前ですわりなおした。
「いろいろあったけど、うちはすみれちゃんに封印してもらえて、ほんまよかったと思うとる。
うちも、封印された他のカードたちも、みんな、すみれちゃんのことが大好きなんや。
なにか、うちらにできることがあったら、遠慮なく呼び出してや」
「なにも、そんなこと、改まって言わなくても」
「そっか。それじゃ、いいかげん、お昼にしようか。このままやとお昼休み終わってしまうで」
チュルミンは、ランドセルからお弁当を取り出した。いつものより3倍近く大きい。
「きょうのお弁当は、うちとさくらんさんが作ったさかい、おいしいでぇ。
知美ちゃんもどうや?こないなこともあろうかと、多めに作っておいたさかい」
「いいんですの?」
「せっかくだから、食べようよ。今からカフェテリア行っても、時間ないし、チュルミンさんの料理、
とってもおいしいんだから」
「では、遠慮なくいっしょにいただきます」
「そうや。いっしょに食べたほうが、何倍もおいしくなるって」
「チュルミンの言うとおり!」

そして、その日の午後の授業は無事に終わった。
「じゃ、みんな、また、あした」
神宮司先生が、教室を出て行った。
「衛くん、校庭でサッカーやろうよ」
「ごめん、きょうはおばあちゃんに頼まれたお使いがあるんだ。また、今度」
「そっか。じゃ、また、あした」

いつも、衛くんは放課後になるとクラスの男の子たちといっしょに校庭に飛び出すから、
クラブのない日は、なかなか話をすることがない。

「そうだ、木之本さん」
「な、なに?」
とつぜん、話しかけられて、あたしは少しどきどきしてしまう。
「けさのロボペ、どうしたの?」
「ラ、ランドセルの中だよ」
「そうなんだ。フードファイトの時もそうだったけど、木之本さんって、いつも変わったロボペを
持っているんだよね」
「う、うん。パパがいつも香港の信和中心で買って来てくれるから・・・日本にない変わった
モデルなんだって。きょうのは、芸人モードがパワーアップしてるんだよ」
「ちょっと、見せてくれない?」
「ほぇ?」
あたしはあわてた。今、チュルミンをランドセルから出したら、また愛の告白をするに決まってる!

「あの、今、バッテリーが切れてて動かないし、それにもし動いていても、けさみたいに芸人モードで
変なことをするかもしれないし」
あたしがあわてていると、
「メーカーを知りたいんだ。おばあちゃんが香港に行ったときに買って来てもらおうと思うから」
「ほぇ?」
それって、衛くんが、あたしと同じロボペが欲しいってこと?
「だから、ちょっとだけ」
「う、うん」
あたしは、断りきれなくてランドセルのふたをあけた。

すかー。すかー。

チュルミンは気持ちよさそうに眠っている。お昼のお弁当をたっぷり食べたからみたいだ。

「バッテリー、あまりないみたい」

あたしは、そっと、眠っているチュルミンを抱き上げた。
「羽のところを見せてくれない?たぶん、そこにメーカーの名前とか入っていると思うんだ」
あたしは、衛くんにチュルミンの背中を見せる。
衛くんが、チュルミンの羽のところに指を伸ばしたとき

(!)

あたしは、一瞬、なにかを感じた。

「どうしたの、木之本さん?何か驚いたみたいだけど?」
衛くんのことばに
「な、なんでもないよ」
あたしはごまかした。魔力を感じたなんて、衛くんに言うわけにはいかない。
「・・・おかしいな。メーカーも型番もなんにも書いてないよ」
「このロボペは特別製だって、パパが言っていた。だから、メーカーも型番も入ってないんだよ」
「そうなんだ。じゃ、同じものをおばあちゃんに買って来てもらうのは無理っぽいね」
「う、うん、たぶん」
「残念だなぁ。けど、見せてくれてありがとう。ぼく、そろそろおばあちゃんのお使いに行かないと」
「残念だったね。それじゃ、またあした」
「うん。じゃあ、またあした」

あたしは、衛くんが教室を出て行くのを見届けて、ほっとした。これで、チュルミンが騒ぎを
起こすともないだろう。

「残念でしたわね〜」
「残念って・・・知美ちゃん、何が?」
「せっかく、衛くんとおそろいのロボペを持てたかもしれないのに。おふたりがおそろいの
ロボペを持って、楽しそうにお話しする・・・想像するだけでも・・・うっとりしますわ〜・・・」
「知美ちゃん・・・」
あたしの頭に大きな汗が浮いた。

「むにゃ・・・むにゃ・・・なんや、背中がこそばゆいな・・・」
そのとき、チュルミンが起き出した。
「目が覚めたのね、チュルミン」
「よく、お眠りになりました?」
チュルミンは、うーん、と背伸びをすると
「はっ!そうや、愛の告白をせんと!花束はどこや、花束は?」
と言って、机の上に飛び降りた。
「もう、放課後だよ」
「なんやて?!」
「衛くんは、お帰りになってしまいましたわ」
「ということは、完全にタイミングを逃してしまったんか?」
「そうですわ」

_| ̄|○ ・・・

そんな_| ̄|○なチュルミンに、知美ちゃんがなにかをこっそりと言った。

(でも、これでよかったかもしれませんわ。すみれちゃんにはライバルがいらっしゃいますから)
(ライバル?誰や?)
(それは・・・今にわかりますわ)

知美ちゃんは、とっても楽しそうに見えた。

「・・・うーん」
あたしの腕の中で、チュルミンはさっきから考え中だ。
「チュルミン、さっきから何考えてるの?教室を出てからずっとじゃない?」
「チュルミンさんは、新たな課題に挑戦されているのですわ」
「新たな課題ってなに?」
「・・・どやったら、うまく愛の告白できるんかなっと思ってな。作戦の練り直し中や」
「そんな作戦、練らなくていいよ」
「そやかて、強力なライバルがおるとなると・・・」
「ほぇ?」
「なかなか難しいですわね。ライバルの方は、とってもふんわりですから・・・」

そんな話をしつつ、あたしたちはペンギン公園の近くに来ていた。

すると、そのとき

ばっしーん!

「なに?」
「雷や!」

空を見上げると、雲がどんどん広がっていく。
「にわか雨でしょうか?」
「ほぇーっ!」
あたしたちは、ペンギン大王の中に駆け込んだ。

>>252
253 名前: 126 04/12/27 22:16:52 ID:u3SdqiHj

「ここなら雨宿りも・・・」

ばっしーん!ゴロゴロ!

雷の光と音が響き渡って、まわりが一気に暗くなった。
ペンギン大王の中から、外をそっとのぞく。

「あや?降ってこないよ?」

ばっしーん!どーん!

「!」

あたしが耳をふさぐと同時に、街灯に雷が落ちた。

「ほぇ?」

見ていると、雷が公園の街灯を飛び移るように移動していった。こんな雷、見たことがない。
「こ、これは?」
「クロウ・カードや!」
「えーっ?!」
「これは、雷、サンダーのカードや!」
「と、いうことは?」
「カードキャプターの出番やで!」
あたしは呪文を唱えだした。
「光の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、すみれが命じる」
「封印解除(レリーズ)!」

「チュルミンは、危ないから知美ちゃんといっしょにいて」
「いやや。うちもクロウ・カードのはしくれや。すみれちゃんといっしょに行くでぇ」
チュルミンはあたしの腕の中から肩のほうに飛び移った。
「だって、チュルミンはケロちゃんの姿を映しただけだから、空を飛べないでしょ?
これからジャンプを使うから、チュルミンは振り落とされてしまうかもしれないんだよ」
「だいじょうぶや。ちゃんとハーネスを用意しておいたさかい」
チュルミンはからだに装着したハーネスの先のカラビナを、ランドセルにひっかけた。
「い、いつの間にそんなものを・・・」
けれども、これでチュルミンを振り落とすことはなさそうだ。

「じゃ、行くよ。ジャンプ!」

あたしはペンギン大王から飛び出して、サンダーの後を追っかけた。

「おふたりともりりしいですわー」
そんなすみれたちを、知美はばっちりと撮影している。撮影しながら、ふと、あることに気がついた。
「いけませんわ。このままでは、すみれちゃんが大ピンチです・・・それには・・・」
ビデオカメラを止めて、知美はケータイを取り出した。
「ここからなら、間に合うかもしれませんわ」

ジャンプでサンダーを追っかけていると、チュルミンが聞いてきた。
「すみれちゃん、サンダーを封印するにはどうしたらいいか、わかっとるん?」
「どうするの?」
「サンダーを封印するには、元の形にするんや」
「サンダーの元の形って?」
「雷獣や。サンダーは、雷撃をくらわして雷獣の姿に戻してから封印するんや」
「そっか。ママのときもそうだったね」
あたしは、知美ちゃんのおうちで見たビデオを思い出した。
「そやから、サンダーに雷撃をくらわせれば」
「ちょっと待って。あたし、雷を操るカードなんで持っていないよ」
「なんやて!?すみれちゃんはサンダーのカードを持っておらんのか?」
「持っていないから、今、追いかけてるんでしょ?」
「そやったら、さくらさんはどないしてサンダーを封印したんや?」
「あのときは、パパが雷の魔法を使えたの!」
「とか漫才やっとるうちに、サンダーのやつ、うちらに気づいたみたいや」
「ほ、ほぇーっ!!!」

サンダーは方向を変えて、あたしたちに向かってきた。

「ほぇーーーっ!!!」
それからのあたしたちは、逃げ回るだけだった。
フライのカードさんを使えば逃げられたかもしれないけれど、とても新しいカードさんを
呼び出す余裕なんてない。
「うぐうぐうぐ・・・」
ジャンプで方向を変えるたびに、チュルミンがハーネスごと振り回される。
「がんばって、チュルミン!」
あたしは、林の中に逃げ込んだ。
そうして、また、ジャンプ。

ブチッ!

「すみれちゃーん!」
とうとうハーネスがちぎれて、チュルミンが放り出される。
「チュルミン!」
あたしはチュルミンを助けようと手を伸ばした。
そして、地面にそのままスライディング。
「だいじょうぶ、チュルミン?」
あたしの手の中でチュルミンは、
「ああ、だいじょうぶや・・・けど、うちら、絶体絶命みたいやで」
「・・・え?」
顔を上げると、あたしたちの正面からサンダーが向かってきた。
そして、あたしたちの前に立ちはだかる黒い影。
「あれは・・・?」
「黒鋼さん?!」
あたしたちの前に立っていたのは、キタリスの黒鋼さんだった。
あたしたちを威嚇するように、サンダーは音をとどろかせる。
「黒鋼さん、あぶない!」
けれども、黒鋼さんがあたしたちをちらっと見た後、サンダーの方を向きなおしたと思うと、
あたりに強烈な光と音が響き渡った。

「なに?なにが起きたの?」
「あのリスのあんちゃん、額から雷撃を出しよった!」
「えーっ!!」

グォーッ!

サンダーは、雷獣の姿に戻っていた。そして黒鋼さんに向けて雷撃で攻撃する。
「黒鋼さん、逃げて!」
けれども、黒鋼さんも逃げずに電撃で反撃する。
サンダーと黒鋼さんの雷撃は、空中でぶつかって

バリバリ!バザーンッ!!!

反動で黒鋼さんがはじき飛ばされた。
「黒鋼さん!」
「あかん!」

はじき飛ばされた黒鋼さんを助けようと、チュルミンがあたしの手から飛び出した。
そして、空中で黒鋼さんを受け止める。
「もう、だいじょうぶや」
けれども、あたしは黒鋼さんが助かったことよりも別のことで驚いていた。
「チュルミン、空、飛んでいる・・・」
「ほ、ほんまや!」
チュルミンは、黒鋼さんを受け止めてそのまま宙に浮いていたのだ。
「はっ!そ、そんなことより、すみれちゃん、封印や!今なら封印できるでぇ!」
「封印って、どうすればいいの?あたし、ママのときのようにシャドーのカードさんを持ってないよ」
「グルーや。グルーのカードで封印できる」
「わかった。やってみる」
あたしは、グルーのカードさんを取り出した。
「膠よ。彼の者を包み込め。グルー!」
カードから伸びた膠がサンダーを包み込む。
サンダーはその雄たけびを残して
「今や!」
あたしは、サンダーに駆け寄った。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!」

まもなくサンダーのカードがあたしの手に飛び込んできた。
「やったぁ!」
「ようやったでぇ。すみれちゃん」
「ありがとう、チュルミン。封印のしかたを教えてくれて」
「サンダーは電気を通さんもんで包んでしまえば封印できる。シャドーもそうなんやけど、
グルーのカードも電気を通さないんや」
「よく知ってるね」
「まぁな。うちは博識やさかい」
チュルミンがやってきて、あたしに黒鋼さんを渡す。
「ありがとう、黒鋼さん」
黒鋼さんは、ぷいっと横を向いた。なんだか照れているみたいだ。
「ほんま、おおきにな。あんたが雷撃出さんかったら、うちらはどうなってたやら。
それにしても、どうして、あんたのようなリスさんがあないな技を持ってるん?」
「ICタグですわ」
「知美ちゃん!」
そのとき、あたしたちの前に知美ちゃんが現れた。お約束どおり、手にはビデオカメラを持っている。
「みなさんの活躍、ばっちり撮影できましたわ」
「知美ちゃん、ICタグって?」
「黒ぴょんさんには、おいたをしたときに懲らしめるために電流を流すICタグが埋め込まれて
おりますの。さきほどの電撃は、わたくしがこれで操作したのですわ」
知美ちゃんは、あたしたちにケータイを見せた。
「でもでも、さっきの電撃すごかったよ。あんなの流してだいじょうぶなの?」
「だいじょうぶですわ」
「ほんとうに?」
「ええ。それが、黒みぃさんの体質なんですもの」
「なに、それ・・・」
あたしとチュルミンの頭に、おっきな汗が浮いた。
「それにしても、チュルミンさんはお空を飛ぶこともできたのですね」
「ほんとう、びっくりしたよ。空を飛べるなら飛べるって言ってくれたらよかったのに」
「すまん、すまん・・・って、うち、この姿で飛べるなんて知らんかったんや」
「ほんとう?」
「ほんまや。ほんまに知らんかったんや。けど」
チュルミンは、羽をぴょこぴょこ動かして言った。
「空を飛べるっちゅうことは、うちがまだまだ大活躍できるっちゅうことや。
このアニメの主人公になれる日も、近いで」
「まぁ、チュルミンさんったら」
知美ちゃんが楽しそうに笑う。それにつられてあたしも笑った。ほんとうによかった。
カードを封印できたこともそうだけど、それよりもチュルミンや黒鋼さんが無事だったから。
ほんとうにありがとう。チュルミン、黒鋼さん。そして、知美ちゃん。

「どうやら、無事に封印できたようですわね」
「ああ。ミラーが空を飛べるようにしておいてよかったよ」
「そんなことまでしたのですか、エドワード」
「ミラーのカードが、すみれさんと行動をともにするのはわかっていた。空を飛べなかったら
危険なめにあって、すみれさんが悲しい思いをすることもわかっていたから、きょう、あわてて
力を使ったんだよ」
「すみれさんにはばれなかったのですか?」
「魔力には気づいたようだけど、ぼくのせいとは気づかなかったようだよ」

ふたりは、すみれたちの封印を見届けると、その場から消えるようにいなくなった。

<×すみれとかがみの迷コンビ?→○すみれとチュルミンの迷コンビ?:終劇>


おまけ さくらとすみれとチュルミンの初夢

さくらの初夢

「だれ?わたしを呼ぶのは?」
ふと気がつくと、わたしはビルの屋上に立っていた。
そして、そばにいるのはケロちゃん。
目の前に広がるのは東京タワー。
東京タワーの展望台の屋根に人影が見える。
あたりに舞い落ちるのは
「桜の花びら・・・?」
思わず手を差し出すと、てのひらにひらりと乗った花びらはかすかな光に包まれた。
「・・・あ?」
その光が消えたとき、花びらはカードに姿を変えていた。


すみれの初夢

「だれ?わたしを呼ぶのは?」
ふと気がつくと、あたしは丘の上にたっていた。
そして、そばにいるのはチュルミン。
目の前に広がるのはハドリアン・ウォール。
その城壁の上にふたりの人影が見える。
あたりに舞い落ちるのは
「すみれの花びら・・・?」
思わず手を差し出すと、てのひらにひらりと乗った花びらはかすかな光に包まれた。
「・・・あ?」
その光が消えたとき、花びらはカードに姿を変えていた。


チュルミンの初夢

「だれや?うちを呼ぶのは?」
ふと気がつくと、うちはビルの屋上に立っとった。
そして、そばにおるんは黒鋼はん。
目の前に広がるんは東京タワーなんかよりごっつう高い通天閣や。
そのてっぺんには、食い倒れのあんちゃんと1粒300メートルが立っておった。
あたりに舞い落ちるのは
「鏡のかけら・・・?」
思わず手を差し出すと、てのひらに鏡のかけらが・・・グサッ!


「いたぁーーーーーーっ!!!」

次回予告
ケロちゃんといっしょに知美ちゃんのおうちに遊びに行くんだ。
でも、知美ちゃんが相談したいことってなんだろう?
またお洋服のデザインのことかな?

そして、知美ちゃんがお部屋で見せてくれたのは・・・

ほぇ〜!これ、宙に浮いてるよ!?

カードキャプターすみれ さくらと小狼のこどもたち
すみれと知美と大切なもの

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
封印解除(レリーズ)! <<NEXT

BUCK

タイトル

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