第15話 すみれとそっくりなプチすみれ

 


ピピピピピ・・・
「あふぅ。もう朝かぁ」
あたし、木之本すみれ。友枝小学校に通う小学5年生。
好きな科目はだんぜん体育!
苦手な科目は、やっぱり算数。
とりあえず元気がとりえの女の子です。

すかー・・・すかー・・・

この、あたしのとなりで寝ているのがケロちゃん。ほんとうの名前はケルベロスっていうんだよ。
え?変わったロボペ(ロボットペット)だって?
ううん、ケロちゃんはロボペじゃなくて、カードの封印の獣さん。
ママが持っている、さくらカードさんの守護者なんだって。
え?さくらカードって?
それはねぇ・・・

「あ、その前にカードさんたちに朝のあいさつをしなくちゃ」

あたしは机の引き出しを開けて、けさもカードさんたちにあいさつをする。
このカードさんたちは、クロウ・カードっていって、クロウ・リードさんっていう大魔術師が
創ったもの。ケロちゃんもクロウさんが創ったんだよ。
そして、カードさんたちのおかげで魔法が使えるんだ。そう、あたしは魔法使いっていうわけ。

「おそよー!朝だよ!」
あたしは、となりの部屋で寝ている男の子のふとんを思いっきりひきはがす。
「むにゃむにゃ・・・おはよう、おねえちゃん」
このもうれつに寝起きが悪いのが、我が弟の龍平。あたしたち、ふたごなんだ。
朝に弱い龍平が遅刻しないように起こすのが、あたしの朝の日課なんだよ。

龍平を着替えさせて、あたしたちは1階のダイニングに下りる。
テーブルで新聞を広げているのが、あたしたちのパパ、李小狼。香港生まれなんだ。
「パパ、おはようございます」
「ああ、おはよう、すみれ、おはよう、龍平」
「おはよう、すみれちゃん、龍くん。おばあちゃんにごあいさつは?」
この人が、あたしたちのママ、木之本さくら。ママのことばに、
「あ、そうか。おはようございます、おばあちゃん」
あたしたちは、テーブルのすみにあるホログラムにあいさつをする。
映っているのは、ママのママ。撫子おばあちゃんだ。
おばあちゃんはママが小さい頃に亡くなっている。でも、モデルをしていたせいで
若い頃の画像がいっぱい残っているんだ。
あ、ママのパパの藤隆おじいちゃんは、まだ元気だよ。

「はい、これがすみれちゃんの朝ごはん、こっちが龍くんの分よ」
テーブルにお粥が置かれる。パパが日本にいるときは、我が家の朝食は中国式なんだ。

「いただきまーす」
あたしたちは食べ始める。
テーブルの上の油条(ヨウテャオ。お粥といっしょに食べる揚げパンみたいなもの)が、どんどん
減っていく。
「今、追加するね」
ママは、あわただしくキッチンに行って、油条を取って来る。
こう見てると、ママは普通のママみたいだけど、実は魔法使いなんだ。
ママが小学4年生のとき、おうちにあった封印の書を開けてしまって、その中にあった
クロウ・カードをばらばらにしてしまったの。そのとき、封印の書で眠っていたのがケロちゃん。
ママは、ケロちゃんに言われて、クロウ・カードを集めるカード・キャプターになったんだ。
そして、カードを集めている間に、香港からカードを集めにやってきたパパと出会ったの。
それから、ママとパパがクロウ・カードを全部集めて、ママがカードの主(あるじ)になったんだ。
今、ママの持っているカードは、ママの魔法の力で動いている、さくらカードなんだよ。
え?じゃ、あたしの持っているカードはなんだって?
あたしの持っているカードもクロウ・カード。けど、ママの持っているカードやケロちゃんよりも
前に、クロウさんが創ったカードなんだよ。どういうわけか、そんなカードが最近現れて、
あたしは、ママとパパとケロちゃんたちといっしょにカードを集めているんだ。

「あ、ケロちゃん、あたしの油条、取らないでよ!」
いつのまにか、ケロちゃんがテーブルにいた。
「すみれが、ナレーションしとるみたいに、ぼけっとしとるからや・・・あむ!」
ケロちゃんは、あたしの油条に食らいつく。

「ほんと、食い意地張ってるな」
パパがつっこむ。
「あんあろ!あいあいいもんいあいいていいもいんえんほうふあんあ!
(なんやと!わいは食いもんに対して、いつも真剣勝負なんや!)」
ケロちゃんが、食べながら、むきになって言う。
「・・・ぬいぐるみ」
パパがしらーっと言う。ケロちゃんが怒る。
「あんあろおろう!おういへんゆうえみい!(なんやと、小僧!もういっぺん、言うてみい!)」
「ああ、何度でも言ってやる。ぬいぐるみ!ぬいぐるみ!」
油条をほおばっているケロちゃんのことばがわかってしまうのが、すごい。
そして、あたしたちは、すぐにクスクスと笑い出した。
だって、パパとケロちゃんのやり取りは、毎日のあいさつみたいなものだもの。

「ごちそうさま!」
「はい、じゃあ、これがふたりのお弁当。小さいけれどデザートにこぐまやのプリンが入ってるから」
「うわーい!ありがとう、ママ!」
こぐまやのプリンは、あたしの大好物なんだ。そして、ケロちゃんも大好物なんだよ。
「なんやって!?さくら、わいの分は、わいの分はあるんか?わいの分もあると言うとくれ〜」
「はいはい、ケロちゃんの分も、ちゃんとあるよ」
「わ〜い!さすが、さくらさまやぁ!」

「いってきまーす!」
あたしと龍平は家を出ました。今日はいい天気になりそうです。


クラスが別の龍平と別れて教室に入ると、あたしはとなりの席の女の子にあいさつをした。
「おはよう、知美ちゃん!」
「おはようございます、すみれちゃん」
この子の名前は、大道寺知美ちゃん。あたしの一番のおともだち。
ほぇ?けさの知美ちゃんはいつもとちょっと様子が違う。ずいぶん眠そうだ。
「どうしたの、知美ちゃん?ちょっと眠そうだけど」
「おわかりですか?実は・・・悩み事があって、つい、夜更かしをしてしまったんです」
「悩み事ってなに?あたしになにかできることがあるんなら、言ってくれない?」
「ありがとうございます。実は、納得のいくものがなかなかできあがらなくて・・・」
「・・・」
少しいやな予感がして、あたしの頭に汗が浮いた。
「納得のいくものって、もしかして、コスチュームデザインかなにか?」
知美ちゃんの趣味はちょっと変わっていて、あたしがカードを封印しに行くときに着る
バトルコスチュームを作ったり、封印の様子をビデオに撮ることなんだ。
「それもありますが、今、悩んでいるのは、すみれちゃんのフィギュアのことなんですの」
「あたしのフィギュア?!」
あたしの頭に思いっきりおっきな汗が浮いた。
そういえば、この前、知美ちゃんのお家にお邪魔したときに、フィギュアを作る機械を
見せられたんだ。そして、あたし、そのためのデータをしっかりととられている・・・
「すみれちゃんのかわいさ、りりしさを完璧に表現したフィギュアを作りたいですの。ですが・・・」
知美ちゃんが、大きなため息をついた。

「おはよう、木之本さん、大道寺さん」
その時、あたしの後ろの席の子がやってきた。
「おはよう、衛(ウェイ)くん」
この子は、衛エドワードくん。イギリスからの転校生。
中国拳法がとっても強くて、いっしょに入っている、中国拳法のクラブでは
いろいろと教えてもらっているんだ。
知美ちゃんも、衛くんにあいさつをする。
「おはようございます、衛くん。ところで、衛くんはフィギュアはお好きですか?」
「え?欲しいと思うのはあるけど、おばあちゃんがなかなか買ってくれないんだ」
「実は、わたくし、今、すみれちゃんのフィギュアを作っていまして・・・」
「と、知美ちゃん、なにを言い出すの?!」
衛くんの目が点になる。
「夏服、冬服、中間服バージョンを企画しておりますの。それから、水着バージョンとパジャマ
バージョンもはずせませんわ。できあがったら、ぜひ、衛くんにも見ていただきたいんですが・・・」
「知美ちゃん!」
もう、はずかしいよぉ!
「・・・(これはちょっとおもしろいかもしれない←エドワードのつぶやき)」
しばらくして衛くんの点になった目が、普通に戻った。
「大道寺さん、モデラー(フィギュアを作る機械のこと)を持っているんだ」
「ええ、ピフル社のICHIROというモデラーです」
「すごいなぁ。そうゆうのなら、A組の三原くんが詳しいと思ったけど」
「そうですの?では、今度、お聞きしてみますわ〜」
話の流れが無難な方向になったので、あたしはほっとした。


それから、何日かたつと、知美ちゃんはフィギュア作りがどんなに楽しいか
話してくれるようになった。だんだん、あの機械の使い方がわかってきたらしい。
「フィギュア用の衣装を作るのも、楽しいですわ。すみれちゃんの勇姿がとてもりりしくて」
「・・・」
あたしの頭におっきな汗が浮く。
「これは、というものができましたら、真っ先にすみれちゃんにお見せしますわ。
プチすみれちゃんシリーズとして、商品化も考えてますの」
「そ、そんなぁ。あたしのフィギュアなんて、売れっこないよぉ」
「そんなことはありませんわ。すみれちゃんは、超絶かわゆいんですもの。
でも、マーケットリサーチも必要ですわね。モニターには衛くんがよろしいかと・・・」
「ど、どうして、そんなことになるの!」
あたしは、耳までまっかになってしまう。そんなあたしを見て知美ちゃんは
「ほほほほほ・・・」
と、いつものように笑っていた。

ところで、そのころから、あたしの体調がおかしくなった。
なんとなく、だるかったり、朝起きるのがつらかったりする。


「あれ?」
あたしはまっしろな部屋にいる。部屋にはベッドがひとつ。
(これ、ときどき見る、龍平の夢だ)
「龍平?」
ベッドに寝ているのは・・・わからない。
誰かが寝ているようなんだけど、わからない。
「あれ?」
あたし、なんの夢を見ているんだろう。何度も見ているはずなんだけど・・・

「おねえちゃん、おねえちゃん!」
あたしは、聞き覚えのある声で目が覚めた。
「・・・龍平?」
あたしを起こしたのは、龍平だった。
「おねえちゃん、もう朝だよ」
「ほぇ?あたし、あんたより寝ていたの?」
龍平に起こされるなんて、初めてだ。
「ほんとう、驚いたよ。目が覚めたら、いつもいるはずのおねえちゃんがいないんだもの。
早く起きないと、遅刻しちゃうよ」
「そ、そうだった」
あたしは、もそもそっと起きた。
「ありがとう、起こしてくれて。すぐに着替えるから」

けれど、なんかからだがだるい。熱があるわけでもないけれど、力が抜けている感じがする。

その日は、クラブがある日だった。
「ようし、型の練習は終わったな。では、いつものように、組み手を行おうと思う」
顧問の小見(おみ)先生が声をかける。
「じゃ、衛と木之本、君たちが1番上手だから、みんなに手本を見せてくれ」
「はい」
衛くんとあたしは、立ち上がった。
「「よろしくお願いします」」
あいさつをして、構えをとる。けれど、そのときのあたしは、かなりつらかった。
(だめ・・・集中できない・・・気を整えなきゃ・・・)
・・・ふらっときた。
「木之本さん!」
衛くんが駆け寄ってきた。
「うみゃ〜っ」
あたしは、衛くんに抱きつくように倒れこんだ。
「だいじょうぶ?」
(衛くんって、暖かいんだ・・・)
安心して、あたしは気を失った。

(予想以上に魔力を消耗している)
保健室のベッドで寝込んでいる、すみれを見ながらエドワードは思った。
小見先生と、保健室の先生は、龍平を探しに行っている。
(このままでは、すみれさんが危ない。ぼくの力で魔力を補充しよう)
そう思ったとき、保健室のドアが開いた。
「おねえちゃん!」
龍平が駆け込んできた。
「おねえちゃん、どうしたの?」
「クラブの練習中に、とつぜん倒れたんだ。熱とかはないみたいだから、風邪ではないみたいだけど」
説明しながら、エドワードはとまどった。
(しまった。龍平くんのいる前で、魔力を使うわけにはいかない)
そして、姉の様子を見た龍平もとまどった。
(おねえちゃん、魔力が消耗してる!けど、魔法のことを衛くんに知られるわけにはいかない。
ここはなんとか、ごまかさないと)
「・・・よくわかんないけど、とにかく、ママに連絡して、お医者さんに診てもらうよ」
龍平は、ケータイを取り出した。

龍平からの電話を受けて、さくらはすみれを施麗芸(シー・ライワン)の病院に運んだ。
「どうですか、しぃ先生?」
「なにかの力によって、すみれちゃんの魔力が奪われています。回復剤を投与しましょう」
「どうなるんですか、おねえちゃんは?」
「お薬をあげるから魔力は回復するわ。けれど、なぜ魔力が奪われたかがわからないと
また、悪化するかもしれない・・・龍くんは、なにか心当たりないかしら?」
「う〜ん」
龍平は腕組みをして、考え込む。
「わからないよ。学校にはクロウ・カードの気配はないし・・・」
「さくらさんは?なにか心当たりはありませんか?」
「い、いいえ。けさはちょっと魔力が弱いなって思いましたけど、こんなになるなんて・・・」
さくらも、首を横に振る。

ピンポーン

そのとき、病室のチャイムがなった。
さくらがインターフォンの受話器をあげると、画面に大道寺知美の姿が映る。
「知美ちゃん!」
「こんにちは、さくらさん。すみれちゃんが急に倒れられたと聞いて、お見舞いにうかがいましたの」
「ありがとう。よく来てくれたわね。入ってちょうだい」

カチャッ

「すみれちゃん、だいじょうぶですか?」
病室のドアを開けた知美を迎えたのは・・・予想外なものだった。
「み、みなさん、どうなさいましたの?」
3人の視線が、知美に集中していたのだ。
「知美ちゃん、あなた、なにを持ってきたの?」
さくらが、知美に聞いた。
「お見舞いのお花と、お菓子と・・・」
「その、バッグに入っているものは、なに?」
知美は、花とお菓子をそばのテーブルに置くと、バッグからそれを取り出した。
「・・・すみれちゃんのフィギュアです。昨晩、やっと満足のいくものができあがって、
それをすみれちゃんに見ていただきたくて・・・プチすみれちゃんといいますの・・・」
「見せてちょうだい!」
さくらの口調がいつになくきつい。
「これは・・・!」
「ええ!」
「おねえちゃんの魔力だ!」
3人が、すみれのフィギュアを見ながら言った。
「よく聞いて、知美ちゃん。すみれちゃんが倒れたのは、なにかによって魔力を奪われたからなの。
そして、このフィギュアに、すみれちゃんの魔力が移っているのよ」
「では、このプチすみれちゃんがすみれちゃんのご病気の原因ですの?」
「それは違うと思います」
施が言った。
「このフィギュアには、そのなにものかが奪った、すみれちゃんの魔力が残っているだけです。
すみれちゃんから魔力を奪ったものは、別にいるはずです」
さくらは、施のことばにうなずいた。
「知美ちゃん、教えてほしいの。このフィギュアはどうやって作ったの?」
「自宅にフィギュアを作る機械がございまして、それで作りましたけど・・・」
「その機械、様子が変なことはなかった?」
「そういえば、最初のうちはなかなか思うようなフィギュアができあがりませんでしたが、
数日前から、急にうまくできるようになりました」
「その機械があやしいわね」
さくらは、施に向かって
「しぃ先生。これから、わたしたちは知美ちゃんのお家に行って、その機械を見てきます。
しぃ先生は、すみれのそばにいてください」
「はい」
「お願いします。じゃ、龍くん、知美ちゃん、行きましょう」


「これは・・・」
知美の部屋に入ったさくらと龍平はことばを失った。部屋中にすみれのフィギュアが並んでいたのだ。
「夏服、冬服、中間服に、体操服、水着やパジャマ、浴衣姿もあるわ」
さくらと龍平の頭に大きな汗が浮いた。
「ええ、数日前から思い描いていたとおりのフィギュアを作れるようになって、夢中で作りましたの」
確かにフィギュアの出来はすばらしい。
あまり詳しくない龍平も、これなら欲しい、と思ってしまうほどだ。
「ママ、全部のフィギュアから、おねえちゃんの魔力を感じるよ」
「そうね。これだけ魔力を奪われたら、すみれちゃんが倒れてしまうのも仕方ないわ」
さくらは、知美に聞いた。
「知美ちゃん、フィギュアを作る機械はどこにあるの?」
「こちらです」
知美が、となりの部屋に案内する。
「この機械ですわ」
「ママ、この機械からクロウ・カードの気配がする!」
「やっぱり、この機械のせいなのね」
さくらは、星のペンダントを取り出した。
「どうなさるんですか?」
知美が、モデラーの前に立ちはだかった。さくらが答える。
「その機械についているカードを封印するのよ」
「封印したら、このモデラーはどうなるのですか?」
「どうにもならないわ。普通の機械になるだけよ」
「でも、普通のモデラーになったら、もう、プチすみれちゃんは作れないのでは?」
「・・・たぶん、あれだけのフィギュアは、もう作れないでしょうね」
「そんなの、いやですわ!」

「わたくしは、すみれちゃんが大好きです。かわいいすみれちゃん、りりしいすみれちゃん、
すみれちゃんのすべてが大好きです。
そのすみれちゃんを、そのままフィギュアにしようと、何日もの間、がんばってきたのです。
それを、クロウ・カードがついているからといって、フィギュアを作れなくしてしまうなんて、
耐えられませんわ!」
知美は、今にも泣き出しそうだ。
「知美ちゃん、でも、そのカードがあると、すみれちゃんの魔力は奪われてしまうのよ」
「でも、プチすみれちゃんを作れなくなるのは、いやですわ!」

さくらと知美が押し問答をしていると、龍平が知美の前に歩いてきた。
「龍くん?」
さくらが不思議に思ったとたん、

ぱちーん!!!

という音がした。
龍平が知美に手をあげたのだ。
「龍くん!」
さくらが、龍平を叱ろうとする。だが、そのことばは先が続かなかった。
龍平の目に涙があふれていることに気がついたからだ。
知美は、ぶたれたほおを手で押さえている。
「ぶちましたわね・・・母にもぶたれたことはありませんのに」
「ああ、ぶったよ!」
龍平が叫んだ。
「ぼくだって、ぼくだって、おねえちゃんのことは大好きだ!
だから、おねえちゃんを困らせるようなやつは、ぶってやる!何回でも、ぶってやるんだ!」
龍平のことばは、涙声になっていた。
今にも泣き出しそうな龍平。それは、知美も同じだった。
そして、先に堰(せき)を切ったのは、知美だった。
「ごめんなさい!」
泣き出した知美は、龍平の胸に倒れこんだ。その勢いで、龍平も床に倒れこむ。
「ごめんなさい・・・わたくし・・・わたくし・・・」
知美は、龍平の胸で泣きじゃくった。

やがて、知美の泣き声が小さくなった。
「はい」
知美は、目の前に何かが差し出されたのに気がついた。
「さくらさん・・・?」
さくらが、ハンカチを差し出したのだ。
「もう、いいでしょう?」
知美がうなずいて、ハンカチを受け取る。
「龍くんも困ったものね。女の子を泣かせちゃうんだから」
「ぼ、ぼくは、その・・・」
龍平は顔を赤らめて、うつむいた。

「じゃ、カードを封印しましょう」
「わかりました。では、急いで準備をしますわ」
「準備って、何を?」
「さくらさんの封印の様子を撮影するビデオの準備ですわ!」

ズザーッ!!!(←さくらと龍平がコケる音)

「で、結局、こうなるのね」
カードを変えていたころの姿に戻り、バトルコスチュームに着替えたさくらがつぶやいた。
「大道寺さんがいれば、こうなるっていうのはわかりきっていたことなんだけど・・・」
同じように龍平もつぶやいた。
「すてきですわぁ〜!」
ふたりにカメラを向けながら、知美が言った。
「ママはともかく、どうしてぼくまで着替えなくちゃいけないの?」
「だって、龍くんも超絶かわゆいんですもの〜!」
知美のテンションがもうれつに上がっていく。
なにしろ、龍平はさくら似だ。
友枝小に通っていたころの姿に戻ったさくらと、龍平が並ぶとまるでふたごのようである。
龍平は、姉が大道寺家に残されているビデオを見るたびに
『龍平って、ビデオのママにそっくり!』と言うのを思い出していた。
「ほんとうにすばらしいですわ!おふたりが並ぶと・・・ああ、しあわせ絶頂ですわ〜」
知美のバックに花が咲きほこる。
そんな知美を見て、頭の後ろに巨大な汗が浮くさくらと龍平・・・

「・・・ママ、カードの封印、忘れていない?」
「そ、そうだったね」

ようやく、自分たちのすることを思い出した親子であった。

さくらが呪文を唱えだすと、足元に魔方陣が現れた。
「星の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、さくらが命じる」
「封印解除(レリーズ)!」
星の杖を手にすると、さくらはカードを取り出した。
「ソード!」
「ハァーッ!」
ソードを振り下ろすと、モデラーからクロウ・カードが切り離されて実体化した。
「ママ、今だ!」
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!」
ピン!という音とともに、星の杖の先で、カードが形づくられる。
まもなく封印されたカードは、龍平の手にすべりこんだ。
「カードは、龍くんの力を認めたんだよ」
さくらがそう言うと、龍平は、手にしたカードを見つめていた。
しばらくして龍平は、さくらにカードを差し出して言った。
「ぼくはカードを使うことができない。だから、やっぱり、このカードはおねえちゃんのだよ」

そのカードは、コピー(模)というカードだった。

「エドワード、いったい、どういうカードですの?コピーというカードは?」
「その名のとおり、コピーするカードだよ」
「では、どうして、すみれさんの魔力を奪ったりしたのですか?」
「コピーのカードは、儀式で大量に使う、薬や魔符をコピーするために作られたんだ。
ところが、ゴールデン・ドーンの記録によると、そのころのクロウは自分の意思でカードを
作ることが許されていなかった。命令されてカードを作っていたんだ。
クロウは、そこのところが面白くなかったらしい。
できあがったカードは、クロウの魔術がまだ未熟だったせいもあって、
今回のように、細かいところで、余分というか、はた迷惑な力を持つことが多かったんだ」
「それで、すみれさんが、ああなってしまったのですね」
「ああ、それと、大道寺さんがあんなにたくさんフィギュアを作って、カードの力を作動させて
しまうとは思わなかったよ。すみれさんに何かあったら大変だったけど、今回は龍平くんのおかげで
なんとかなったね」
「でも、ちょっと残念ですわ・・・あれだけのフィギュアを、もう作れないとなると・・・」
「・・・何か考えているの?」
「いえ、たいしたことではありませんが」

そのころ、知美の部屋では・・・

「もう、やめてよ。ぼくはいいんだから」
半分泣きそうになっている龍平に、知美が言った。
「もう少しですから、じっとしてくださいな。さぁ、腕を上げて・・・」
知美はてきぱきと龍平のからだを採寸していた。
「さきほどのバトルコスチューム、すこし、肩がきつくてラインがくずれていましたわ。
龍くんのかわゆさを最大限に表現するためには、少しの妥協もしたくありませんの!」
「そんなぁ。ママ、なんとか言ってよ」
「そ、そうね。でも、どうせ作ってもらうのなら、ぴったりの方がいいと思うし」
さくらのことばははっきりとしなかった。知美のテンションに圧倒されたというのもあるが
(ものすごくかわゆいコスチュームを着た龍くんを見てみたい!)
と、言う思いもあったからだ。
「ひらめきましたわ!さくらさん、もう一度、龍くんにウェディングドレスを着てもらうというのは
いかがでしょう?あのときの龍くんはとってもすてきでしたわ!」
ふたりの脳内に、ウェディングドレス選びの時の龍平が浮かび上がった。
「そ、そうね」
思わず、さくらは激しくうなずいてしまう。
「ほ、ほぇ〜っ!」
母に裏切られた龍平の叫びが大道寺邸にこだました。

<すみれとそっくりなプチすみれ:終劇>


ケロちゃんにおまかせ!

みな、元気か!
これさえ見れば元気もりもり、花粉症も吹き飛ばす
ケロちゃんにおまかせの時間がやってきたでぇー!

今日はすてきなアイディアをお寄せいただいた >>58 さんに >>126 からの伝言があるでぇ!
伝言は、わいがこうやってもらっとる。なになに・・・
「季節ネタは、2ヶ月前には振ってもらわないと間に合わないです」
なんや、いけずな返事やなぁ。3週間も待たせてこないな返事か。
けど、>>58 さん、気ぃ悪うせんといてぇやぁ。
>>58 さんのゆうたとおりに話始めると、わいがせっかくはっておいた伏線が台無しに
なってしまうんや。なんせ、龍平が○×☆しまうと、すみれは≒лЩなってしまうさかい。

まぁ、すみれとの話も少し空いてしもうたけど、新学期からは放送も始まることやし、
これからも、わいのナイスで小粋な大活躍をたぁーっぷりとお見せするでぇ!

みなも新学期はがんばりぃな!
ほななぁ〜。

次回予告
ほぇ〜!
知美ちゃんが、あたしと龍平のフィギュアをコンテストに出品したんだって!
しかも、張(チャン)教授と桃矢おじさんが、審査員だなんて。
あたしたちが会場になった友枝美術館に行くと、そこには魔力の気配が。
たいへん!このままだと美術品がなくなっちゃうよ!

カードキャプターすみれ さくらと小狼のこどもたち
すみれの怪盗初挑戦!?

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
封印解除(レリーズ)! <<NEXT

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