第14話 すみれと知美の新しいおともだち

「すみれちゃん、今日はクラブございませんでしたわね」
「うん。けど、どうして?」
その日の授業が終わったとき、知美ちゃんが聞いてきた。
「ちょっと、お願いしたいことがございますの。よろしければ、家まで来ていただきたいのですが」
「いいよ。でも、そのお願いってなに?」
「それは、いらしてからお話しますわ」

というわけで、あたしは知美ちゃんの家まで来ている。
知美ちゃんと一緒に大きなおうちの大きな玄関を通って、知美ちゃんのお部屋に向かう。
「お嬢さま?」
メイドさんが、知美ちゃんに声をかける。
「お茶はどちらにお持ちしましょうか?」
「じゃ、わたしの部屋に3つ」
ほぇ?ここにいるのはあたしと知美ちゃんだけ・・・
「3つですか?」
メイドさんが、不思議そうに聞き返す。知美ちゃんは、こくんとうなずくと
「お願いしますね」
と、あたしの手を引っ張って歩き出した。
「知美ちゃん、お茶を3人分って?誰かいるの?」
「今にわかりますわ」
知美ちゃんは、いたずらっぽく微笑むだけだった。

部屋に入る。ひょっとして、誰かがいるのかと思ったんだけど、誰もいないようだ。
まもなく、ドアがノックされて
「どうぞ」
「お嬢さま、お茶をお持ちしました」

メイドさんが部屋を出ると、あたしは知美ちゃんに聞いた。
「知美ちゃん、お願いってなぁに?」
「実は、もう一度、お洋服の寸法を取らせていただこうと思って」
「ほぇ?」
いつの間にか、知美ちゃんはメジャーを持っていた。

あたしの背中にメジャーがあてられている。
「知美ちゃんが作ってくれるの、いつもぴったりだよ」
「でも、成長期ですし・・・すみれちゃん、ちょっと腕を上げてくださいな」
「あ・・・はい」
あたしは、言われたとおりに腕を上げる。
「すみれちゃんが一番かわいく見えるように作りたいんですもの・・・」
「あ、ありがとう」
あたしは、そう答えるのがやっとだった。

ぴん

その時、あたしは、かすかな音に気がついた。
なんだろう。

ぴん

ぴん

ぴん

その小さな音は、何度も続いている。
(ほぇ?)
知美ちゃんが、あたしを採寸するたびに音がしているようだ。
「知美ちゃん、寸法を取るたびに何か音がしているようだけど」
「採寸メジャーの音ですわ」
「メジャーの音?」
「寸法を取ると、そのデータがモデラーに送られますの」
「モデラーに送られる?」
「あれを見てください」
知美ちゃんの指差す方を見ると、机の上にホログラムのようなものが表示されていた。
そして、知美ちゃんがあたしのウエストを計ると、ぴん、という音がして
ホログラムが真ん中が少しへこんだようになる。
「採寸データは、このようにしてストアされるんですの。もう少しで終わりますから・・・」
「ほぇ・・・そうなんだ」
あのホログラム、あたしの分身みたいなものなんだ。

「さぁ、終わりましたわ。すみれちゃん、ありがとうございます。
これで、また新しいバトルコスチュームを作れますわ」
知美ちゃんの目が輝いている。
「・・・」
あたしの頭におっきな汗が浮いている。なんか、間が持たない。
「・・・そうだ、知美ちゃん、あのホログラム、そばに行って見ていい?」
「どうぞ」
あたしたちは、ホログラムに近づいた。
機械の上には、あたしの身体から作られた人形のホログラムが浮いている。
「このデータを元にして、コスチュームを作りますのよ」
「ほぇ〜・・・はう?」
あたしはあることに気が付いた。
それは、ホログラムのマシンに付いている、メーカーの名前。
このメーカーの名前は聞いたことがある。クラスの男の子たちが時々話している会社だ。
「知美ちゃん、このピフルって会社、フィギュアを作る機械の会社だよね」
知美ちゃんの笑顔が、一瞬、こわばったのは気のせいだろうか。
「ひょっとして、バトルコスチュームだけじゃなくて、あたしのフィギュアなんて・・・」
「ほーっ、ほほほほほ・・・」
「知美ちゃんっ!」
「だって、すみれちゃんがかわいすぎますもの・・・」

カチャッ

知美ちゃんがあたしから視線をそらせた時、ドアが開く音がした。
「誰?」
「いらっしゃい、黒りんさん」
知美ちゃんがドアを開ける。
「黒りん・・・さん?」
やがて、ドアから入ってきたのは、見慣れない黒い物体だった。
大きさは30センチぐらい。たてがみのようなものが生えている。
それに20センチぐらいの、ふさふさとした長いしっぽも生えていた。
知美ちゃんの足元に止まると、あたしの方を見つめている。
まるで、知美ちゃんを守っているかのようだ。
「ご紹介しますわ。キタリスの黒たんさんですわ」
「キタリスの・・・黒たん・・・さん・・・?」
「ええ、お茶を3人分用意したのは、黒ぴっぴさんの分もあるからですわ」
「ほぇ〜」

「ほんとう、じょうずに食べるのね」
あたしは、そのキタリスさんが上手に両手でナッツを食べるのを見ていた。
ふと、あたしと目線が合う。
すると、俺は見せもんじゃないやいって感じで、横を向いて、また食べ始めた。
「いいなぁ。リスさんのペットなんて。うちにはケロちゃんしかいないから」
「いいえ、黒むーさんはペットではありませんわ。お客さまですの」
「ほぇ?どういうこと?」
「先週の日曜日、ショッピングからの帰りに、黒みーさんが道で倒れているところを見つけまして
お家までお連れしましたの」
「倒れていたって、病気か何かだったの?」
「いいえ。お医者さまに診ていただいたところ、しばらく何もお食べになっていなかったとのことでし

た」
「そうなんだ。じゃ、今は」
「ええ、すっかり元気になられて・・・そろそろ、帰っていただこうかと思います」
「ペットにしようとか、考えないの?」
あたしがそう聞くと、知美ちゃんはやさしい目でリスさんを見ながら
「わたしも、最初はそう考えたのですが、お医者さまのお話では、キタリスというのはペットに
あまり向かないそうで、母とも相談して、お家にお帰しすることにしましたの」
「そうなんだ」
そのリスさんは、食べるのをやめて、知美ちゃんの方を見つめていた。
あたしは、そこで、もうひとつ、気になることを質問した。
「あの、知美ちゃん?」
「なんですの?」
「そのリスさんの名前、さっきからどんどん変わっているようなんだけど」
「黒ぴーさんのフルネームは、黒鋼(くろがね)さんです。母が付けてくださいました」
「でもでも、知美ちゃん、さっきから、黒りん、とか、黒ぴっぴ、とか呼び方が変わっているよね」
「それは・・・」
知美ちゃんが一瞬固まった。
「ほほほほほ・・・」

どうやら、黒鋼さんの呼び方が変わるのに、特に理由はないようだった。

その時、黒鋼さんはティーカップを両手で抱えて、紅茶を飲みだした。
「ほぇ〜!じょうずに飲んでるよぉ」
「ええ。黒まーさんは、熱いのはだめですが、冷めていればじょうずにお飲みになりますのよ」
「すごーい。紅茶を飲むリスさんって初めてだよ」
「あら、ケロちゃんさんだって、ティーカップを使って、じょうずに紅茶を飲まれますわ」
「そ、それはそうだけど・・・」
黒鋼さんとケロちゃんを比べるのは、違うと思う。
カップをソーサーに戻した黒鋼さんに、知美ちゃんが聞く。
「お腹いっぱいになられました?」
黒鋼さんは、こくんとうなずいたようだった。
「それでは、お家までお送りしますわ」
知美ちゃんが両手を差し出すと、黒鋼さんは自分から知美ちゃんに抱かれていった。
キタリスがペットに向かないというのは、うそみたいだ。
知美ちゃんは、あたしの方を向くと
「車を出しますので、すみれちゃんも、ご一緒しませんか?」
「うん」

黒鋼さんをお家にーといっても、公園の近くの林のことなんだけどーに帰してから数日後、
あたしと知美ちゃんは、葵先生のところにプリントを届けに行った。
理科の準備室に入って
「先生、理科のプリント、持って来ました」
「ありがとう、木之本さん、大道寺さん。そこの空いている机の上に置いておいてくれないかしら?」
「はーい。って先生、どこにいるんですか?」
あたしたちは不思議なことに気が付いた。
葵先生の声は聞こえるけれど、姿が見えない。
「こちらよ。今、探し物をしているの」
どうやら、先生は準備室にたくさんある、標本や実験器具の中に埋もれているようだ。
「お手伝いしましょうか」
「だいじょうぶよ。見つかったから」
「ほ、ほぇ〜っ!」
あたしは、思わず、飛びのいた。だって、葵先生、いきなり目の前にぬーって現れるんだもん。
「驚かせて、ごめんなさい」
先生は、箱を持ちながら言った。
「何を探されていたのですの?」
知美ちゃんの質問に、先生が答える。
「イチョウなんかと葉っぱと、ギンナンやドングリの木の実。去年の1年生が、理科の授業で集めたも
のね」
「あたしたちも、1年生の時に、先生の授業で集めました。公園近くの林ですよね」
「そうよ。でも、今年の1年生はかわいそうなの」
「え?どうゆうことですか?」
「あなたたちもそうだったけど、毎年、秋になると1年生のみんなが、あの林に行って
紅葉で色が変わった葉っぱや、木の実を集めてくるの」
「はい」
「それが、今年は、冷夏だったせいか、あの林、紅葉が全然進んでいないのよ」
「そ、そういえば・・・」
黒鋼さんとお別れした林は、日差しは確かに秋だったけど、まるで夏の林のように緑がまぶしかった。
ただ、あたしは、別のことが気になって、そのことはあまり気にならなかったのだけど。
「でも、それじゃ授業にならないから、今年は、みんなで行くのはあきらめて、
去年集めた標本を使って授業しようと思って、それで、去年のを探していたのよ」
「そうなんですか・・・」

準備室を出ると、知美ちゃんが、あたしに聞いてきた。
「すみれちゃん、ひょっとしたら、これもクロウ・カードのしわざですの?」
「・・・そうかもしれない」
「では、さっそく、カードキャプターの出番ですわね!
ああ、今夜にでも、すみれちゃんとさくらさんの活躍が撮影できますわぁ!」
「・・・今夜は、無理だと思う」
「あら、どうしてですの?」
「あの林、いっぱいいるんだ。幽霊みたいなのが」
「まぁ」
「この前、黒鋼(くろがね)さんをお家に帰した時、知美ちゃん、あたしの様子がおかしいって
聞いたよね」
「はい」
「あれは、そのせいなの。あの林の奥の方って、人の気配とかいっぱいするの」
「では、すみれちゃんのように魔力があると」
「混乱しちゃう・・・あたしは、まだだいじょうぶだけど、ママは多分、だめ。
イリュージョンのカードの時みたいに、ほえほえになっちゃうよ」
「そうなんですの・・・でも、どうしましょう。クロウ・カードのせいかもしれませんし」
知美ちゃんの言うようにクロウ・カードのせいかもしれないし、
葵先生が言ったように冷夏のせいかもしれない。あたしはちょっと考えてから、知美ちゃんに
「今日の放課後、行ってみようよ。明るいうちなら、幽霊とかの気配が弱いはずだから
クロウ・カードのせいかわかるかもしれない」
と言った。
「わかりました!いっしょに参りましょう!」
知美ちゃんの目はきらきらしていた。

その日の放課後、あたしと知美ちゃんは、黒鋼さんとお別れした林に来ていた。
「どうですか、すみれちゃん?」
「う、う〜ん。やっぱり、こっちかな?」
あたしたちは、少しずつ歩いては立ち止まる。
「・・・。こっちかも」
この林にいると、いろいろな気配があるのがわかる。
悪意のあるっていうか、良くないものの気配はないんだけど、いろいろとうずまいている感じ。
あたしは、少し歩いては精神集中をする。そして、気配が強くなっている方へ歩き出す。
「カードの気配はしますの?」
「まだ、わかんない。とにかく、いろいろな気配があって・・・」
「それにしても、ほんとうに夏のようですわね」
知美ちゃんの言うとおりだ。日差しは確かに秋なんだけど、落ち葉なんでほとんどないし、
木々の色も緑のままだ。

「あら、あれは?」
「知美ちゃん、なにか、見つけたの?」
「あれは、ひょっとして・・・」
知美ちゃんは木に走りよって、ひざをついた。そして、その陰をのぞきこむようにして
「元気がないようですが、だいじょうぶですの?」
その木の陰から、黒い影がゆらりと現れると、知美ちゃんのひざに倒れこんだ。
「どうなさったんですか、黒むんさん!」
「で、どないなったんや、その黒とんとかいう豚は?」
「豚さんじゃないよ。リスさんだよ!名前も黒鋼(くろがね)さんって言うんだからね!」
「・・・似たようなもんやないか。で、どないなったんや?」
「すぐに知美ちゃんが、お家につれて帰ったの。今ごろ、お医者さまに診てもらっていると思うよ」
そして、あたしは家に戻って、こうしてケロちゃんと相談している。ママには、まだ内緒だ。
「ふーん。そりゃ、知美も大変やなぁ」
「ケロちゃん、どう思う?」
「どうって?」
「今度のこと、クロウ・カードのしわざかもしれないってこと」
「確かにやっかいやなぁ。あの林、さくらがミラーを封印した時からそうやったけど、
幽霊とかいっぱいおって、魔力のあるもんにとっては、ほんままぎらわしいんや。
そのせいか、建物も建たずに、今でも林のままなんやけどな」
「そうなんだ。じゃ、やっぱり、もしママがそこに行ったら」
「あかんやろな。さくら、人一倍、幽霊とかに弱いよって・・・」

その時、あたしのケータイの着メロが鳴った。
「知美ちゃんだ。はい、すみれです。黒鋼さんは、だいじょうぶ?お医者さまに診てもらったの?」
あたしが聞くと、画面の向こうから知美ちゃんが
「はい、お医者さまは大変なことをおっしゃいました」
「大変なことって?!病気か何か?」
「黒鋼さんのお腹が空っぽだと、お医者さまがおっしゃいまして・・・」
あたしとケロちゃんは、固まってしまった。
「・・・それって、お腹ペコペコだって言うこと?」
「そういうことですわね」
画面のフレームから、知美ちゃんが外れていく。そして見えてきたのは、ものすごい勢いで
ナッツを食べている黒鋼さんだった。
「それで、今、黒みーさんは、お食事中ですの」
その時、ケータイをのぞきこんでいたケロちゃんが言った。
「なんや。わいの方がずうーっとかっこええやないか!」
ケロちゃんのことばが聞こえたのか、黒鋼さんが、ナッツを食べるのを止める。
「・・・うっ!」
ケロちゃんが、ちょっとひいた。
「・・・こいつ、わいにガン飛ばしよる・・・上等やないか!この封印の獣、ケルベロスさまに
けんか売ろうやなんて!」
「ケロちゃん、やめて!黒鋼さんはリスさんなんだよ」
あたしは、ケロちゃんをケータイの前からどかすと、知美ちゃんに
「じゃ、黒鋼さんは、もうだいじょうぶなんだよね。お腹いっぱいになれば、また、お家に
帰れるんだよね」
「そうなんですが、わたし、心配しておりますの」
「心配って?」
「お医者さまのお話では、黒ちぃさんは、お家に帰ってから何も食べていないんじゃないか、
あの林で食べ物を見つけられなかったのでないか、ということですの。
そうしますと、お家にお帰しても、また同じことになりそうで・・・」

「それは、変な話やな」
横からケロちゃんが言った。
「あの林、秋になるといろんな木の実がいっぱいできるんや。えさが見つからないなんて、
考えられへん。あの林は、いつごろからかペットのリスやらがぎょうさん住み着いたことで、
友枝テレビでも紹介されとったほどなんやで」
「じゃあ、あの林で、やっぱり、なにかが起きているんだね」
「そういうことや。クロウ・カードのせいとは限らんけどな」
「でも、どうしましょう。すみれさんでも、カードの気配はわかりませんでしたし、
さくらさんでは、ほえほえになってしまわれますし・・・」
「すみれ、知美、忘れてへんか?」
「何を?」
「魔力を持つもんは、ここにもおる。わいなら、カードの気配、きっちり見抜けるで」


その次の日曜日、あたしたちは例の林に来ていた。
「あ、来た来た!知美ちゃん、こっちだよ!」
「知美、待ってたでぇ!」
ケロちゃんが、たまごリュックからからだを乗り出して、手をふる。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません。
黒みんさんのしたくに時間がかかってしまいまして・・・」
そう言って近づいてくる知美ちゃんの胸には、黒鋼(くろがね)さんが抱かれていた。
「どう?黒鋼さんの様子は」
あたしが聞くと、知美ちゃんはにっこりと笑って
「もう、だいじょうぶですわ。お医者さまも、体調は万全だとおっしゃっておられましたわ」
「じゃあ、もうだいじょうぶなんだ。よかったぁ。こんにちは、黒鋼さん」
黒鋼さんは、あたしに向かって、軽くうなずいた。けれども、ケロちゃんが
「よう!わいは、ケルベロスや」
と、あいさつすると
「・・・また、わいにガンを飛ばしよった。なんや、わいに恨みでもあるんかい?!」
ケロちゃんは、たまごリュックから飛び出すと、黒鋼さんの前に飛んでいって、にらみつけた。
ふたり(?)の間に火花が飛ぶ。
「だめだよ、ケロちゃん!」
あたしは、ケロちゃんを抱きかかえた。
「すみれ、なんで、止めるんや?この黒いの、わいにけんか売っとるんやで!」
「落ち着いて、ケロちゃん。黒鋼さんは、リスさんなんだから。
それに、今日は、この林にクロウ・カードを探しにきたんだからね」
「わかった・・・今日は、すみれの顔を立てて、勘弁したる。けど、そこの黒いの、これから
この封印の獣、ケルベロスさまが超かっこえーとこを見せたる。わいのナイスで小粋な活躍、
よう見とるんやでって・・・なんや?」
ケロちゃんは、突然、あっけにとられていた。

見ると、知美ちゃんの胸に抱かれているはずの、黒鋼さんがいなかった。
「知美ちゃん、黒鋼さん、どこに行っちゃったの?
「黒りるさんは、突然、あちらの方に走って行ってしまわれましたわ」
知美ちゃんは、林の奥の方を指差した。
「あちらが、黒ぴむさんのお家だと思いますの」
知美ちゃんのことばを聞いたケロちゃんは
「・・・なんや・・・わい、あほみたいやないか・・・」
黒鋼さんが突然いなくなって、がっくりしていた。
「気を取りなおしてくださいな」
すると知美ちゃんが、ケロちゃんに小さな袋を差し出した。
「少しですが、クッキーが入っています。これを食べて、元気を出してくださいな」
「わーい、クッキーや!」
ケロちゃんは、知美ちゃんの手から袋を奪うと、クッキーをむさぼるように食べだした。
「うまいっ!うまいで、知美!」

「ケロちゃんって本当に食い意地はってるね」
「すみれ、それを言うんなら、わいは食いもんに対して、いつも真剣勝負なんや!」
「・・・なんなの、それ」
あたしとケロちゃんの、お約束のやり取りだった。

ケロちゃんがクッキーを食べ終わると、あたしたちは林の奥に入って行った。
「どう、カードの気配、わかる?」
あたしがケロちゃんに聞くと
「すみれはどうや?カードの気配がわかるんか?」
「・・・わかんない。いっぱい、いろんな気配がして・・・」
「わいもや。昔、さくらとここに来たときより、いろんな気配がごちゃまぜになって、
ごっつう強くなっとる。こりゃ、クロウ・カードが隠れとっても、並の魔力ではわからんやろな」
「まぁ、すみれちゃんだけでなく、ケロちゃんさんでも、わかりませんの?」
「ああ、こりゃ、ほんまにやっかいやでぇ」
その時、あたしは、一瞬だけ、気配を感じた。
「ケロちゃん、今の?」
「すみれも、感じたか。今のは、確かにクロウ・カードの気配や。
どうやら、クロウ・カードが、この林にいるんは、間違いないようやな。
けど、また、他の気配も強うなった。他の気配がカードの気配を隠しとるみたいやな」
「そんな、どうして?」
「わからん・・・」
その時、あたしの目の前がふっと暗くなった。
「すみれ、だいじょうぶか?!」
「すみれちゃん、しっかりしてください?」
倒れそうになったところを知美ちゃんが支えてくれた。
「・・・うん、なんとか」
「あかん。すみれの気配を読む力はさくら以上やから、こうぎょうさん気配があるところに
長くおると、まいってしまうんや。はようカードを見つけんと・・・」
「そんな!すみれちゃんがだいじょうぶなうちに、カードを見つけませんと・・・」
「ああ、そやけど、これはやっかいやで」

その時、あたしたちの目の前をレーザーのような光線が走った。
「何?!」
驚いていると、光線が飛んできた方から誰かがやってきた。
「パパ!ママ!」
「すみれ!ケルベロスといっしょに、どうして、こんなところにいるんだ?」
「パパやママも、どうしてここに?今日は、ママがパパを空港までお出迎えに行っていたんでしょ?」
「そうよ、すみれちゃん。でも、空港からの帰り、車の中で羅針盤が反応したの」
「羅針盤って?」
あたしが聞くと、パパは手に持っているものを私に見せるようにした。
「これだ。これはクロウ・リードが作ったもので、クロウ・カードのある場所を示すものなんだ」
「それで、こちらにいらしたんですわね」
「すみれこそ、どうしてさくらに黙ってカードを探しているんだ?」
「ここって、幽霊とかの気配がいっぱいあるから、ママがほえほえになっちゃうと思って、
それであたしたちだけで、なんとかカードを封印しようと思って・・・」
あたしがパパに質問にあわてて答えると、
「ママはだいじょうぶよ」
「幽霊とか平気になったの?」
「ううん、全然。でも」
「でも?」
ママはにっこりと笑って、
「だって、小狼くんといっしょだもん!」
ズザーッ!!!(←すみれ、ケルベロス、知美がめいっぱいコケる音)
「と、とにかく、羅針盤もあることやし、クロウ・カードのところまで行こうやないか」
あたしたちは、なんとか立ち直ると羅針盤の示す方向に歩いて行った。
「これは?!」

あたしたちが見たのは、いっぱいに枝を伸ばしているウッドのカードさんだった。
その枝は、林の中いっぱいに広がっているようだった。
「わかりましたわ!」
「わかったって、どういうこと?」
「この林に起こっていることですわ。ウッドのカードさんが秋になっても紅葉にならないように
してるのですわ!」
「つまり、いつまでも他の木がいつまでも緑のままでいられるように、エネルギーを与えているって
いうわけね」
知美ちゃんとママの説明を聞いて、
「どうして、そんなことを?」
と、あたしが聞くとパパが答えた。
「ウッドのカードは、木々を緑に繁らせることができるんだ。秋になって紅葉が進み、
やがて落葉するのを、仲間が弱っていくと思って助けているんだろう」
「そや。ウッドは、クロウ・カードの中でも、いっちゃんおとなしくて優しいカードなんや」
「ほんとう、ケロちゃんさんのおっしゃるとおりのようですわ」
あたしたちは、納得した。
「でもでも、ウッドさんをこのままにするわけにはいかないよね」
「すみれの言うとおりだ。主(あるじ)のいないカードを放っておくわけにはいかない。
それにこのままだと、いずれ魔力が途切れてただのカードになってしまうぞ」
パパのことばにうなずくと、ママがウッドのカードさんに言った。
「というわけなの。あなたの仲間を助けたいという気持ちはわかるけど、このままではいけないわ。
カードに戻ってくれないかしら?」
けれども、ウッドさんははっきりと首を横に振った。

あたしたちの説得はしばらく続いた。
けれども、ウッドさんは首を横に振るばかり。
「・・・いつまでも、こんなことをしているわけにはいかない」
パパはそう言うと、剣を実体化させた。
「パパ、なにをするの!」
「伸ばしている枝を切れば・・・」
「だめ!ウッドさんを傷つけちゃ!」
あたしは、パパに抱きついて止めた。
「しかし、このままじゃ・・・」
「あたしがなんとかする!きっと、ウッドさんはわかってくれるから!」
「・・・うん・・・わかった」
パパは振り上げた剣を降ろしてくれた。
「・・・どないするつもりや、すみれ?」
ケロちゃんが心配そうに聞いてきたけれど、あたしに考えがあるわけではなかった。

「あら?」
その時、知美ちゃんのケータイに着信があったようだ。
「これは・・・近づいて来てますわ!」
「近づいているって・・・何が?」

知美ちゃんはケータイの画面を見て
「この木の裏ですわ」
と、のぞきこんだ。思わず、あたしも知美ちゃんのとなりからのぞきこむ。
「黒みるさん、どうしてここへ?」
あたしたちが見つけたのは、黒鋼さんと、リスが4匹。
「黒あむさんの、お友だちですの?」
知美ちゃんがそう聞くと、黒鋼さんは黙ってうなずいているように見えた。
「でも、みなさんの、そのご様子は・・・」
黒鋼さん以外のリスさんは、ずぅーっと何も食べていないらしく、ふらふらだったんだ。
「ウッドさんが木を枯れさせなかったせいで、みなさんの食べ物が見つからないんですわね」
「リスさんたち、おなかペコペコで死んじゃうかもしれない・・・」
あたしは、思わず、足元にいた、よりそっている2匹のリスさんを抱き上げた。
知美ちゃんも、別の2匹を抱き上げる。
あたしと知美ちゃん、そして黒鋼さんは、みんなのいる所まで戻った。
「どうしたんだ、ふたりとも、リスなんか連れて来て?」
「リスさんたちが、たいへんなの」
そして、あたしと知美ちゃんはウッドさんの方を向いた。
「見て、ウッドさん。このリスさんたちは、この林に住んでいるリスさんなの。
毎年、秋になると、ここにいっぱいできる木の実を食べて、おなかいっぱいになって
そして寒い冬に備えるんだよ」
「ですけど、今年は食べ物がなくて、みなさん、お困りのようですの」

あたしたちのことばを聞いて、ウッドさんの表情が変わった。

「すみれたちの言うとおりだ。お前は、仲間を助けているつもりかもしれない。
けれど、お前の仲間は木だけではないんだ」
パパがそう言うと、ママもことばを続けた。
「そうよ。あなたの仲間は、この林のすべて。秋になって、紅葉になって、落ちた木の実は
林に住む動物たちの大切な食料になるの。それに、落ち葉だって、春に生えてくる
新しい木や草のたいせつな養分になるのよ。木をいつまでも夏のように繁らせてしまうと、
この林のみんながおかしくなってしまうのよ」
そして、あたしも言った。
「だから、だから、ウッドさん、お願い、カードに戻って!」

一瞬、ウッドさんのからだが光に包まれた。
光が消えていくと、ウッドさんのからだから伸びていた枝がなくなっている。

「・・・空気が変わった」
思わず、あたしはつぶやいた。
その時のあたしたちは、まるでタイムマシンの中にいるようだった。
まぶしいほどの緑が、みるみるうちに赤や黄色に変わっていく。
そして、色づいた葉は地面に落ち、ぱらぱらと音を立てて木の実が落ちていく。
「さぁ、お食事の時間ですわ」
知美ちゃんがリスさんたちを降ろすと、2匹は木の実を食べ始めた。
あたしも、2匹のリスさんをそっと降ろす。
1匹のリスさんが、ふらふらだったけど、木の実をつかむと、もう1匹のリスさんに差し出していた。
あたしには、なぜかその2匹がパパとママみたいに思えた。

「すみれ、リスもだいじょうぶなようやし、そろそろ封印や」
「うん」
あたしは、呪文を唱えだした。
「光の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、すみれが命じる」
「封印解除(レリーズ)!」

杖を持つと、あたしは、ウッドさんにお礼を言った。
「ありがとう、わかってくれて。リスさんたちは、もうだいじょうぶだから、カードに戻って」
ウッドさんもやさしく微笑むと、カードにその形を変えてくれた。

「汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!」

手の中にすべりこんできたウッドのカードさんを見て
「よかった。ウッドさんて、ほんとうに優しいカードさんなんだね」
「そうや。すみれも、ようやったな」

帰りの車の中で、あたしは知美ちゃんに聞きたいことがあった。
「知美ちゃん、黒鋼さんが来たの、どうしてケータイでわかったの?」
「ICタグですわ」
「ICタグって、イヌさんやネコさんに埋め込んで、迷子にならなくしたりするのだよね」
「そうですわ。今日、すみれちゃんをお待たせしてしまったのは、お医者さまにお願いして
黒みいさんの額にICタグをつけていただいたためですの。
これさえあれば、黒ぽんさんが近くにいらっしゃっればケータイでわかりますし」
「しかし、あの黒いの、ほんま気にいらんやつや。わいに、なんべんもガン飛ばしよったで」
ケロちゃんが、話に入ってきた。
「でも、黒鋼さんは、リスさんだから。紅茶も上手に飲むんだよ」
「なんや、それ?紅茶ぐらいなら、わいも飲むで。紅茶飲むぐらいでほめられるんなら、
わいもICタグつけてもろうて、知美のペットになろうかな?」
「それは、いいアイディアですわ」
知美ちゃんがうれしそうに言う。
「ICタグには、悪いことをすると懲らしめるように電流を流す機能も付いておりますの」
「・・・なんやって?」
「もともとは、吠えるのを止めさせるための機能ですが、ケロちゃんに付ければ、
もう、つまみ食いなんかさせませんわ」
「・・・堪忍や、それやったら、プリン食べてすみれに怒られとったほうが、まだマシやで」
「それですか。それは残念ですわ。ほほほほほ・・・」
「・・・知美ちゃん」

この時、さくらや小狼も含めて、車内のみんなが知美を敵に回すのだけはよそうと思ったのであった。

<すみれと知美の新しいおともだち:終劇>

次回予告
最近、とっても眠いんだ。
けさなんか、おそよー君に起こされちゃったし。
そういえば、知美ちゃんも眠そうだよね。
え?夜更かしして、そんなものを作っているの?
は、はずかしいよぉ〜。

カードキャプターさくらと小狼のこどもたち
すみれとそっくりなプチすみれ

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
封印解除(レリーズ)! >>NEXT

ケロちゃんにおまかせ!

新年おめでとさん!
みな、3が日はどうやった?おせち食うたか?お雑煮食うたか?お年玉もろうたか?
そうか、そうか、そりゃよかったなあー!
ケロちゃんにおまかせ・新春スペシャルの時間がやってきたでぇー!

今回は、2004年を迎えるにあたって、わいの抱負を語ったろうやないか・・・うん?
・・・なんや、いつの間にかスレが新しうなっとる!
誰がたてたんや? >>1 さんか。新年になったからスレも一新というわけか!
>>1 さん、気ぃ利くなぁ。ほんま、ありがとうな。
ネタ切れで苦しんどる 126 に代わって、礼を言うでぇ!
わいも、ほんまのところ、このコーナーの途中でスレが終わってしまうんじゃないかと
心配しとったところなんや。
新しいスレも立ったことやし、これからも、わいのナイスで小粋な大活躍をたぁーっぷりと
お見せするでぇ!

みなも今年はがんばりぃな!
ほななぁ〜。

BUCK

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