第10話 すみれと魔法のピアスとカードたち


「あれ?」
あたしはまっしろな部屋にいる。部屋にはベッドがひとつ。
「龍平?」
ベッドに寝ているのは龍平だった。
肩で息をしている。苦しいはずなんだけど、龍平の表情は不思議に安らかだ。
「どうしたの龍平?どこか悪いの?」
龍平の口元が動く。え?聞こえないよ?
なにか言っているようだ。でも、でも・・・
「龍平、龍平ったら。ママ、このまま龍平が」
「・・・すみれちゃん」
あたしはママの顔を見た。
「・・・すみれ」
声の方を向くと、そこにはパパがいた。
「・・・すみれさん」
別の声の方を向くと、そこにいたのは、エリオルおじさんだった。

ぴたっ。

あたしは、額のひんやりとした感じで目が覚めた。
「すみません。起こさないように気をつけたつもりなのですが・・・」
「ミ、ミラーさん?」
あたしの顔をすまなさそうにのぞきこんでいたのは、ミラーさんだった。
「そろそろ、額のシートを替えた方がいいかと思ったので・・・」
「でも、もう大丈夫やな。熱ももう下がってきたようやし」
ミラーさんの肩に乗っていたのは、ケロちゃんだった。
「ほんま、昨日は大変やったな。ワードのカードを封印した時、池に落ちてしもうて、
おまけに寒い中ウィンディーを使ったわけやから、風邪をひいて当然や」
そうだった。あたしたちは急いで家に戻ったんだけど、あたしは家に着いた時、もう、
寒気が止まらなかった。すぐにあったかくして、ベッドに入ったんだけど、
その後のことは、よくわかんない。なんだか天井がぐるぐるしていたのは覚えている。
「ほんま、大変やったんやで。さくらのやつ、大慌てで医者を呼びよったし」
「お医者さんって、しぃ先生が来てくれたの?」
しぃ先生とは、うちのかかりつけのお医者さんの施麗芸(シー・ライワン)先生のこと。
「そうや。でも、まぁ、すみれの熱も下がったことやし、カードも封印できたことやし・・・
今日の学校は休んでしもうたけどな」
「ママは?」
「さっきまですみれの看病しとったけど、すみれの熱も下がってきたんで、すみれのことは
わいらに任せて、夕飯の買い物に行っとる。今夜は、すみれの大好物を作ってくれるんやろな」
「そうかぁ。ありがとう、ケロちゃん、ミラーさん」

「汗をおふきします」
ミラーさんが、タオルで首のあたりをふいてくれる。タオルをふく手が、ふと止まった。
「ほぇ?」
「え?あの、なんでもありませんが・・・」
ミラーさんの視線は、あたしの耳に向けられていた。
「これ・・・あの時の?」
「あ、ピアスね。はずさないで寝ちゃったんだ。でも、あの時って?」
「そうか、そうやったな!」
突然、ケロちゃんが大きな声を出した。
「どうしたの、ケロちゃん?」
「契約の儀式や。すみれと封印の杖との契約の儀式。あん時、わいとミラーがおったんや」
「それって、今、初めて聞いた」
思い出した。あたしが初めてカードさんを封印した時、最初から魔法が使えたんだ。

→回想モード開始
「でもでも、あたし、まだ契約の儀式なんかしてないよ。どうして、いきなり封印できたのかな」
「それはねぇ」
ママの話し振りが変わった。
「ケロちゃ〜ん」
突然、ケロちゃんがあたふたし始める。
「人生いろいろやぁ!うっしゃー!!」
←回想モード終了

あの時、結局、契約の儀式については聞かなかったんだ。

「覚えてないのも、当たり前や。すみれが契約の儀式をしたんは、まだ1歳ぐらいだったさかい」
「ほぇ〜。でも、なんで?」
「まぁ、なんちゅうか・・・」
ケロちゃんは、ミラーさんと顔を見合わせた。
「さくらには、ほんとうのことを話してはおらんけど・・・」
ケロちゃんの話は続いた。

その日、わいはさくらの様子がおかしいのに気づいて目が覚めよった。
「さくら、調子悪いんか?」
さくらは、寝ている間に、わいの隣でカードを集めていた頃の姿に戻っていたんや。
魔力の強いもんには、一番ラクな年齢っちゅうんがある。
クロウが何百年も青年のままやったんは、その姿でいるんが一番魔力を使わずにすむからや。
それで、クロウは死ぬまであの姿やった。
さくらの場合は、全部さくらカードに換えた頃の姿が一番ラクチンなんやけど、
いつまでも子供のままでいるわけにはいかないさかい、魔力を使って年齢を調節してるんや。
「それで、カードを使ったり病気のなったりすると昔の姿に戻っちゃうんだね」
そうや。その時のさくらは顔が真っ赤で苦しそうやった。
わいは、そろそろとさくらのおでこに手を伸ばした。
「あっちぃ!」
「・・・ケロちゃん?」
わいの声で、さくら、目覚ましてしもうた。
「大丈夫か、さくら?熱あるみたいやけど」
「・・・はみゅー、風邪ひいたみたい・・・天井ぐるぐるだよぉ」

「そんなぁ。さくらだけの身体やないんやでぇ」
わいは、部屋の反対側にあるベビーベッドを見た。すみれと龍平は、まだお休み中やった。
「今日は小狼くんは香港だし・・・おにいちゃんは学会の手伝いだし・・・
ケロちゃんはそんなんだし・・・」

「ケロちゃん、どんなだったの?」
「赤ちゃんの頃、すみれはわいをよくおもちゃにしとったやろ。
ちょうど、そん時、わいはすみれに羽をむしられてしもうて、空、飛べなかったんや」
「・・・ごめん」

「空も飛べんし、真の姿にも戻られへん。子供たちの面倒みてやりたいんやけど・・・
!、さくら、どないすんや?」
さくらはふらふらとベッドから起き出した。そして、星のペンダントを取り出しよった。
「星の力を秘めし鍵よ。真の姿を我の前に示せ。契約の下、さくらが命じる。
封印解除(レリーズ)」
封印の杖を手にしたさくらは、今度はカードを取り出した。
「我を映し、もうひとりの我となれ。ミラー」
まもなく、鏡からさくらの姿となったミラーが抜け出て来た。
「ミラーさん、お願いだけど、しばらく子供たちをみていてくれない?」
倒れそうなさくらの身体を支えて、ミラーは答えよった。
「はい」
「ごめんね、いつもこんなこと頼んじゃって」
「いえ。お役にたててうれしいです」
「ありがとう」
「ケロちゃん、わたし、お医者様行って来る」
「医者って、さくら、子供のまんまで行くんかい?」
「大丈夫だよぅ。しぃ先生の所だから」
「しぃって、小僧の親戚の、あの女の先生か?」
(魔力のある子供は、特に幼い頃、魔力の無い子供とは違う病気にかかったり、薬の効き目が
違ったりします。そのため、小狼の母の李夜蘭は、孫が生まれると、親戚の医者である、
施麗芸(シー・ライワン)が友枝町で開業できるように日本政府を動かしたのでした。
当然、施は、さくらたちの魔力について知っています)
さくらは、ミラーに手伝ってもらいながら着替えると、わいらを見て言った。
「じゃ、ふたりをお願いします。お目覚めの時間まで、もう少しあるから」
そして、さくらはすみれたちの方を見て、
「ごめんね、さくら、ママ失格だよぅ」
「そんな、早くお医者様の行かれては・・・」
「ありがとう。行ってくる」
さくらは、そうミラーに言ってから、わいの方を見て言った。
「ケロちゃん、すみれちゃんをぜぇーったい、あれに近づけさせないでね!」

→ミラーの回想モード開始

さくらさんが、仲間をさくらカードに変えてから、私の封印が解かれることは減りました。
そんな状況が変わったのは、すみれさんと龍平さんが生まれてからのこと。
さくらさんおひとりでは手に負えなくなると、私がお手伝いすることが増えたのです。
そして封印を解かれるたびに思うことーそれは人の成長。
最初はただ私のあげるミルクを飲むだけだったのが、いつの間にか私を見つめてる。
抱っこすると私の髪に手を伸ばしてくる。私があやすと笑ってくれる。
いつのまにかハイハイを始め、つかまり立ちができるように。
私は違う。呼ばれる時は、いつもさくらさんの昔の姿。それは、おそらくこれからも変わらない。
なぜなら、私はカードだから。主(あるじ)がいて、主の魔力が尽きない限り
死ぬこともなければ歳をとることもありません。

その日、私とケルベロスさんは玄関でさくらさんがお医者様の所に出かけるのを見送りました。
「さてと・・・」
私の腕の中でケルベロスさんが言いました。
「ミラー、台所へ行かへんか。あの子たちが目覚める前に朝ごはんのしたく、しとこやないか」
「はい」
私はケルベロスさんを胸に抱いてキッチンに入りました。
でも、どうしよう。赤ちゃんの食事・・・離乳食なんか作ったことはありません。
大人の食事の作り方なら、お留守番の時に・・・『あの人』・・・に
教えてもらったものもあるけれど・・・
「どうした、ミラー?なに立ち止まっとんのや?」
「あ、なんでもありません」
「あの」
「なんや?」
「おふたりの朝ごはん、何を用意したらいいのでしょうか?」
「そうやなぁ」
ケルベロスさんは、少しの間腕組みをして考えると
「そや!ミラー、わいをあのカウンターの上にある電話のそばに降ろしてくれんか?」
「はい」
私の腕から降りたケルベロスさんは、電話のボタンを操作し始めました。
「どうするのですか?」
「料理の献立に困ったとき、さくらのやつ、いつも電話で相談しとったんや」
「誰にですか?」
「あんちゃんに」
その『あんちゃん』が『あの人』であることに、私はすぐに気がつきませんでした。
「あった、あった!この番号や。短縮になっとるな。ほれ!」
まもなく聞こえてきたダイヤル音。そして、
「はい、木之本です」
「え?」
私の心が舞い上がった。
「ミラー、どないした?はよう、受話器取らんかい!」
「はい、木之本です」
思わず出た、私の言葉。後から考えてみれば、とっても間が抜けた返事。
「・・・ミラーなのか?」
どうしてわかるんだろう。この人はとうの昔に魔力を失っているはずなのに。
「珍しいな。何があったんだ?」
事情を手短に話すと
「そうか。すまんが、今日はどうしても学会の方は抜けられないんだ。
献立のことなら、ちょっと冷蔵庫まで行って、中に何があるのか教えてくれないか?」
私は受話器を持ったまま、冷蔵庫の扉を開いて、目についたものを知らせました。
「・・・それなら、ミルクリゾットがいいだろう。取り分ければ、さくらの分も作れるし」
「でも、レシピはどうすれば?」
「冷蔵庫の扉、閉じてみろ。扉にパネルがついている」
「これですね。なんですか?」
「パネルの左上のアイコンをタッチしてくれないか?」
言われたとおりにすると、パネルにメニューが映し出されました。
「最近の冷蔵庫は、いろいろできるんだ。『ミ』のアイコンをタッチして」
すると、『ミ』から始まる献立名が表示されました。
「その中に『ミルクリゾット』というのがあるはずだ。それをタッチして」
「これですね」
「画面が切り替わっただろう。食べる人数を入力したら、右下のFAXのアイコンをタッチする。
すると、リビングにあるFAXからレシピが出て来るから」
「わかりました。それを見て作ればいいのですね」
私は少しとまどいながら答えました。

「こっちの用が済んだら顔出すから。ありがとな。いつもさくらのこと助けてくれて」
「・・・」
私は言葉が出ませんでした。
けれどもお留守番の時のように、あの人の手が私の頭にやさしく置かれたような気がしました。

受話器を戻すと、ケルベロスさんと一緒に冷蔵庫のパネルを操作しました。
「作る分量なんやけど、赤ちゃん2人分というのは当然として、この大人1人分というのはなんや?」
「さくらさんの分ですけど」
「わいの分を忘れとるで!」
「す、すみません」
あわてて、1人分を追加します。
「もう1人分や」
「え?」
「せっかく作るんや。ミラーも一緒に食ったらええやないか」

「うーん、ええにおいやなぁ」
「今、おふたりの分を取り分けます」
すみれさんと龍平さんの分は、別にして少し冷まします。
残りの分は、大人向けに味付けを加減して
「ちょい、味見させてくれ・・・なんや、この気配は!」
「これは!」
その時、私は仲間からの『声』を聞いたのでした。

→ミラーの回想モード終了

「みんなが呼んでいます!」
「さくらの部屋や。すみれになんかあったんや!」
わいは、味見をやめてミラーと一緒に2階に上がった。
部屋の中に入るとベビーベッドにおるんは、龍平だけやった。
龍平はベッドの柵につかまり立ちして、ある方向を心配そうに見ておった。
おそらく、すみれのことが心配だったんやろな。
その先にある、ウォークインクローゼットの扉が開いていた。
「すみれのやつ、どないしてベッドから降りたんや」
ウォークインクローゼットの中をのぞいて、わいらは自分の目を疑ごうた。
「すみれ!」
「すみれさん、危ない!」

「あ、あたし、どうしてたの?」

まだ、つたわり歩きがやっとのはずのすみれが、クローゼットの奥にある棚を登っていたんや。
それも、大人の背丈ほどの高さまで登っておった。
「あれを取ろうとしてるんや!」
わいらはあわてて駆け寄ろうとした時
「危ない!」
すみれが、足を踏み外したんや!

その時、封印の書からさくらカードが飛び出してきよった。
カードたちは、空中で円陣を作ると落ちていくすみれを受け止めた。
すみれは、カードたちに支えられて無事に床に軟着陸したんや。
「みんな、ありがとう」
ミラーが礼を言うと、カードたちは、すみれのまわりをひとまわりした後、封印の書に戻って行った。
「すみれさん、大丈夫ですか?」
ミラーが床からすみれを抱き上げると、すみれは何もなかったように無邪気に笑っておった。
「あ、これは?」
ミラーは、すみれが何かを手にしているのに気がついた。
「ケルベロスさん、これは?」
「封印の鍵や。すみれのやつ、とうとうこれを取ったんやな」
「どうゆうことですか?封印の鍵って、さくらさんがお持ちじゃ・・・」
「さくらのとは別もんや。すみれは生まれた時、これを手に持っておったんや。
すみれ、自分がカードキャプターになることがわかっておるようでな、
ハイハイを始めたころから、なにかあると、封印の鍵を取ろうとするんや」
「では、契約の儀式を済ませたんですか?」
「まだや。さくら、すみれが赤ちゃんのうちからカードキャプターになることに反対なんや。
なるにしても、もう少し大きうなって自分の意思でカードキャプターになると決めてから、
って言いよってな。それで、いつも、さくらはわいに、すみれをこれに近づけさせないで、
って言うとるんや」
「そうなんですか」
「でもなぁ。このままやと、また似たようなこと起こしよるで」
そこで、わいは決心したんや。
「ミラー、ちょっと手伝うてくれへんか?」

「わいと封印の鍵を、あの机の上に置いて・・・ミラーはすみれを抱っこして部屋の真ん中に・・・
そうや。じゃ、始めるで」
わいは精神を集中した。すみれとミラーの足元に魔方陣が現れた。
「封印の鍵よ」
わいの足元に置かれた封印の鍵が、宙に浮かんだ。
「汝との契約を望む者がここにいる。幼女(おさなご)、名をすみれ」
宙に浮かんだ鍵は、そのまま移動してすみれの前で止まる。
「鍵よ、幼女に力を与えよ」
「封印解除(レリーズ)!」
その呪文と同時に、光が広がり、封印の杖がその真の姿を現した。
「すみれ、杖を取るんや!」
ミラーの腕の中で、すみれは自分から杖に手を伸ばしよった。
そして・・・その小さい手でしっかりと杖を握り締めたんや。
「よっしゃー!カードキャプターの誕生や!」
まもなく、光が消えていった。
まだその重さを持ちきれず、すみれの手から杖がこぼれるように落ちた。あわててミラーが杖を拾う。
「やっぱり、いきなりカードキャプターをするのは無理かもしれんなぁ。
ミラー、すみれと一緒にわいの方に来てや」
ふたりが近づくと、わいはすみれの額に手を当てた。呪文を込めた念をすみれに送り込む。
「これでオーケーや。すみれが自分で魔法を使いたいと思うた時、自然に呪文が出てくるはずや」
「今のが、契約の儀式なんですね」
「そうや。もう何年ぶりかな。あんまり久しぶりなんで、できるとは正直思わんかったで」
「・・・」
すみれとミラーの頭にどでかい汗が浮きよった。

ミラーの手の中で杖が鍵に戻った。その鍵をミラーはすみれに渡す。
「はい、すみれさん」
すみれは、鍵を手にすると無邪気に笑った。
思わず、ミラーも微笑んだ。
「ミラー」
「え?」
わいとミラーは顔を見合わせた。
「ミラー」
「すみれさんが私の名前を・・・呼んでくれた」
「ミラー」
「なんや、ミラーに負けてしもうたがな」
「負けたって、どうゆうことですか?」
「すみれが最初に覚えた言葉は『ママ』やった。ミラーが2番めや」
「そ、そうなんですか?」
「羽を何度もむしられとるのに、この扱いや。わいって不幸やなぁ。けど!小僧には負けへんで!
すみれには、この封印の獣、ケルベロス様の名前を小僧より先に言わしたる!なぁ、すみれ」

「あ〜っ!」
その時、さくらの驚いたような、気の抜けたような声がした。さくらが病院から帰って来てたんや。
「ケロちゃん、あれほど、すみれちゃんを封印の鍵に近づけたらだめだって言ったじゃな・い・・・」
急に声が小さくなると、さくらは自分のベッドに倒れこんで、そのまま眠うてしもうた。
あわててすみれをベビーベッドに戻し、さくらにふとんをかけるミラーにわいは言った。
「あの先生のくれる薬はごっつうよう効くけど、いつもこうなるんやな」
「そんなことがあったんだ」
あたしは、ケロちゃんの話を聞いてびっくりしていた。
ジャンプのカードさんを封印するまで、あたしに魔力があるなんて考えてもみなかった。
それが、あたしって、赤ちゃんの時に自分からカードキャプターになろうとしていたんだ。
「ありがとう。ケロちゃん、ミラーさん。ふたりがいなかったら、あたし、クローゼットから
落ちてケガしてたかもしれないんだよね」
「わいらやない。カードがすみれを助けたんや。主(あるじ)でもないのにな。
カードのみなが助けてくれたから、すみれがカードと仲良うなれると思ったから、
わいも契約の儀式をする気になったんや。ただ、その後もなんとなくいきさつを話す機会がのうて、
さくらは、今でもわいがいたずら半分で契約の儀式をやったと思うとるやけどな」

その時、あたしはずいぶんとのどがかわいていることに気がついた。
当然なんだけど、ゆうべ、ベッドに入ってから何も食べていないし、飲んでもいない。
そのことを言うと、
「気がつかなくて、すみません。今、飲み物をお持ちします」
と言って、ミラーさんはあたしの部屋を出て行った。

→キッチンに向かうミラーの回想モード開始

食事を済ませ、私はキッチンで後片付けを、ケルベロスさんは2階でおふたりの相手をしていました。
「す、すみれ、せっかく羽が生えかけとるのにぃ、堪忍してなぁ。龍平、龍平まで・・・
龍平だけは、わいの味方やと信じとったのに・・・あぁдиゞ・・・わいの羽がぁ!」
そんな声が聞こえてきた時、玄関のチャイムが鳴りました。
「あ・・・」
「時間が空いたから、ちょっと抜け出してきた。1時間ぐらいで戻らなくちゃならないが」
あの人は2階からの声を聞いて
「どうやら大丈夫なようだな」
「はい、さくらさんは病院から戻られてお休みですし、おふたりもいい子にしていらっしゃいます」
「そうか、サンキュ」
そう言って、あの人の手が、やさしく私の頭をなでてくれました。
「後片付けか?」
「ええ。でももう終わりですから」
「今日は昼飯やおやつも作らなくちゃならんだろう」
「はい。でも、冷蔵庫にメニューがいっぱいありますし、また探せば簡単です」
「ひとつ、覚えてほしいのがあるんだ」
「はい?」
思いがけない言葉に、私はあの人を見つめてしまいました。
「冷蔵庫のメニューには無い、俺だけの、いや、俺と母さんだけのレシピがある。
今日みたいに、さくらやあの子たちが困っていて、俺がいない時に作ってほしいんだ」

←ミラーの回想モード終了

「お待たせしました」
ミラーさんがマグカップを持って、戻ってきた。
「お口にあえばいいのですが・・・」
差し出されたのは
「あったかはちみつミルクだ」
あたしは、マグカップを受け取った。やけどしないようにゆっくりと飲む。
身体中に、ほんのりとした甘さと心地よい暖かさが広がっていく。
「ほぇ?」
あたしは、あることに気がついた。
(この味、桃矢おじさんの作るはちみつミルクの味だ)
そして、ママが風邪をひいた時の会話を思い出した。

『はちみつミルクの作り方、教えてください。ママが言っていたんです。
桃矢おじさんの作るのは、ママのよりおいしいって。ママのよりあったかくなれるって』
『だめだ』
『ほぇ?どうしてですか』
『どーしても。作り方を知っているのは、俺ともうひとりだけだ』

そうか、その「もうひとり」ってミラーさんだったんだ。
「あの、お気に召しませんか?」
「ううん。ミラーさんのはちみつミルク、とってもおいしいよ」
あたしがそう言うと、ミラーさんはやさしく微笑んだ。

<すみれと魔法のピアスとカードたち:終劇>

次回予告
今日はね、校外学習で友枝防災センターに来たの。
授業ではやらない、いろいろなお話を聞いたり、
地震や水害のシミュレーションなんかもできるんだよ。
でも、ここでもクロウ・カードの気配が!
それに龍平が大変なことに!

カードキャプターさくらと小狼のこどもたち
すみれとドキドキマヨネーズ

次回もすみれと一緒に
さくらと一緒に
封印解除(レリーズ)! >>NEXT

BUCK

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