すみれとお母さんの誕生日

著者126氏

「おうおう、よく食うなぁ。誕生日だっていうのに」
「おにいちゃん!」
「桃矢、だめだよ。せっかくのさくらちゃんの誕生パーティなんだから・・・
あ、ごめんね。ついさくら『ちゃん』って呼んじゃって」
「いいんです、気にしませんから」
雪兎おじさんの言葉に、ママがあわてて首をぷるぷると横に振る。
「まぁ、いくつになっても怪獣なんだからな」
「さくら、怪獣じゃないもん!」
みんなが、どっと笑う。今日は、ママのお誕生日。パパとあたしと龍平、それに藤隆おじいちゃんや
桃矢おじさん、雪兎おじさん・・・とにかくみんなが集まってパーティを開いている。
みんなにお祝いされて幸せそうなママ。そして、そんなママを見つめているパパも幸せそうだ。
「みなさん、ありがとうございます。お仕事や学校を終わってから来ていただいて」
「いや、平日でよかったよ」
桃矢おじさんが、意地悪そうに言う。
「もし、こんなパーティを日曜日にやっていたら、俺たちは料理作りで疲れ果てて
パーティどころじゃなかったぞ」
「ご、ごめんなさい!」
思わず、あたしはあやまった。今日の、ママの誕生パーティの料理、あたしと龍平とパパで
作るつもりだったんだけど、作り始めたら、材料が足りなかったり失敗したりで、
結局、藤隆おじいちゃんや桃矢おじさんに手伝ってもらったんだ。
というより、半分以上はふたりに作ってもらったぐらいだ。
(それにしても、木之本家って、どうして、みんな料理がじょうずなんだろう)
あたしがそんなことを考えていると、
「ほんとうにおめでとう、さくらさん」
藤隆おじいちゃんが口を開いた。
「これからも、小狼くんと、すみれさん、龍平くん、みんなと元気で仲良く暮らしてくださいね」
「ありがとう、おとうさん」
ママは、おじいちゃんにもらった花束とプレゼントを手に取りながらお礼を言った。
「残念なんですが、私たちは明日から発掘の準備がありますから、そんなにゆっくりできません。
そろそろ、桃矢くんたちと帰ろうと思うんですが」
「あ、じゃ、その前に、デザートを出しますから、それを食べていってください」
あたしは、あわてておじいちゃんに言った。
「デザートだけは、おねえちゃんが作ったんです」
龍平が余計なことを言う。
「『だけ』ってなによ!『だけ』って!他にも作ろうとしたけど、その、分量を間違えたり
焦がしたりで・・・」
「すみれさんは、がんばったんですね。じゃ、そのおいしいデザートをいただいてから
帰りましょうか」
「は、はい!今、持ってきます!」
あたしは、冷蔵庫の方に行った。
そして、フリーザのドアを開けると・・・

「・・・どうしよう。まだ、凍っていない・・・」
あたしが作ったジェラートはまだ凍っていなかった。時間が足りなかったんだ。
「・・・こんなの、食べてもらえないよ・・・!」

その時、あたしは魔力の気配を感じた。そして、小さな声を聞いた。

(フリーズ)

すると、ジェラートが見る見るうちに凍っていった。これなら、おじいちゃんたちに
食べてもらえそうだ。

「ありがとう、ママ。来年の誕生日パーティは、きっとおいしい料理やデザートを作れるように
なるからね」
あたしは、どこかに隠れているはずのママにそう言って、ジェラートの盛り付けを始めた。

<誕生日番外編:終劇>
今日は誕生日だということを思い出して、あわてて書きました。(ネタ切れ中の 126)


著者  鏡氏 (>>80-81 名前: CC名無したん 04/04/11 15:30 ID:EdqQrtHL)

いまさらだけど、126さんの>>69-71に付け加えで一筆させてもらいます。


「すみれ。ちょっといいか?」
ママのお誕生パーティーもお開きとなり、帰り支度を始めたパパがあたしを呼んだ。
「何? パパ」
(いいから、ちょっと来い)
急に小声になったパパ。
あたしの視線の先にいるパパは、なんだか気まずそうな顔をしていた。
(悪いが、これをあとで、さくらに渡してくれ)
と、パパがあたしに差し出したのは、一通の手紙。
「ほえ? どうして?」
(・・・・俺の性格をわかってるなら、そんな事は聞くな)
パパは、顔が真っ赤になっていた。今のパパ、なんか可愛い。
「パパ。これってもしかして」
(シッ! とにかく、確かに渡したからな。頼むぞ、すみれ)
「はいはい」

パパが香港へ帰って行った後、あたしは自分の部屋で、パパがあたしに託していった
手紙をこっそり開いて見た。
短い文章の漢文だったけど、あたしでも読めた。

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さくら、誕生日おめでとう
こんな事を面当向かって言えないから、手紙に託す

俺は直接、おまえ達を助けてやる事ができないのはわかっていると思う
これからも、すみれや龍平の事を頼む
施先生にもよろしく言っておいてくれ
いつか、俺がおまえ達と毎日一緒に暮らせる日が来るといいな

 我 愛 汝      これからも

李 小 狼
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読んでいて、あたしまでどきどきしてきた。
これって、完全にラブレターじゃない。

「すみれぇ? ちょっと降りてきて」

一階からママの声が聞こえた。
「あ、はぁい!」
あたしは手紙をまた封筒に入れ直すと、わたわたと一階に降りて行った。

ママに、いつ渡そうかな? ・・・・パパからの恋文。


すみれとお母さんの誕生日2著者 126氏


「だだいまーっ」
「ただいまじゃないでしょ、ふたりとも!もう暗くなっているのよ!」
「はーい」
母親におこられて、それでもあまり悪びれてない様子で、ふたりが家に入ってくる。
「おなかすいたぁ。晩ご飯まだぁ」
「はい、はい。もうすぐですよ」
姉に少し遅れてくつを脱ぐ弟に向かって
「龍くんもこんなに遅くまで・・・今日はどこに行ってたの?」
「桃矢おじさんのとこ」
「今日も?」
「うん」
さくらは不思議に思った。ここ数日、この姉弟の帰りが遅くなっている。
どこで遊んでいたのかと聞くと、帰ってくる答えは決まって兄の家。
心配になって、ケータイでふたりの位置を確認したことがある。確かにふたりはうそをついていなかった。
けれど・・・
(歴史が好きな龍くんがおにいちゃんの家で遊ぶのはわかるけど、お外で遊ぶのが好きなすみれちゃんが
ずーっと家の中で遊ぶなんてね・・・あ、そうだ)
「すみれちゃん!」
さくらは、部屋に戻ろうとするすみれに声をかけた。
「なーに、ママ?」
「最近、お部屋のおかたづけしてないでしょ」
「ほぇ」
「今日、ママがかたづけてあげたんだけど」
「ほぇっ」
「キーボードがなかったみたい」
「ほぇほぇほぇっ」


さくらの言うキーボードは、以前、すみれにせがまれて買ってあげたものだった。
けれど、活発なすみれは部屋の中でより外で遊ぶことを好んだ。
買うときから予想はしていたが、そのキーボードは、やっぱり買ってまもなくあきられてしまったのだ。

「ど、どこにしまったのかな。今度、お部屋をおかたづけするときにちゃんとしておくよ」
ばつが悪そうに答えるすみれ。そこに龍平が
「ママ、今日の晩ご飯は?」
「今日は、エビフライよ」
「「わーい!」」
子どもたちの顔が明るくなる。エビフライはさくらだけでなく、子どもたちも好物なのだ。
「ふたりとも、手を洗いなさい。すぐに晩ご飯だから」
「「はーい!」」

もうすぐ桜の花が咲こうとする、ある日の夕方の出来事だった。

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その数日後。町中に桜の花が咲く中、さくらは誕生日を迎えた。
今年は、友枝町にある小さなレストランを借りてバースディパーティが開かれた。

「誕生日おめでとう、さくら」
「おめでとう、さくらさん」
「おめでとう、怪獣」
「さくら、怪獣じゃないもん!」

みんなの祝福をうけて、バースディパーティが始まった。

さくらは、花束やプレゼントを受け取りながら、あることに気がついた。
(あれ、すみれちゃんのキーボードじゃない?なんで、ここにあるの?)

そこに、すみれと龍平が並んだ。
「ママ、お誕生日おめでとう」
「ぼくたちは、ママへのバースディプレゼントに曲を演奏しようと思います」
「曲は、桃矢おじさんに教わったんだよ」
(おにいちゃんから?)
さくらは兄の顔を見た。
(最近、ふたりの帰りが遅かったのはこのせいだったのね)
さくらに見られていることに気づいた桃矢は、こっくりとうなずいた。

ブーッ
「龍平、落ち着いて」
間違えて音を出してしまった弟に、すみれが言う。ふたりで片手ずつ弾くようだ。
「練習どおりにね。じゃ、始めるよ」

まもなく、オルガンの音がキーボードから流れ出した。その曲は・・・

(・・・この曲、おかあさんの曲だ)
(ママ、お誕生日おめでとう。あたしたち、ママのこと大好きだよ)
(ありがとう。すみれちゃん、龍くん)

ぎこちないけれども暖かい曲がふたりによって奏でられていった。

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